もう、キスだけじゃ足んない。


「んー、まあ、べつに遥に話すのはあとからでもいいかな。胡桃に用あるなら俺に話通してからにしろって怒ってたけど、戻ってこないし」


実は電話かけたの、遥じゃなくて、胡桃ちゃんに用あったからなんだよね。


「え……?」


清見さんの言葉に、ぴたりと思考がとまる私。


遥じゃなくて、私に用事……?

もしかしてまた、この間みたいな撮影のお願いとか……?


「ごめん、胡桃。ちょっと電話いい?」

「遥」


心の声が聞こえたんだと思う。

私の首に顔をうずめていた遥もぴたりととまって、私の手にそっと手を重ねる。


「あ、遥戻ってきた感じ?」


「おい。この間のこと、忘れたとは言わせねーぞ。
胡桃に用事なら、俺のこと通してからって言っただろ」


「はぁ……ほんっと胡桃ちゃんのことになると容赦ないな、おまえは。その情熱、もっと仕事にも注いでもらいたいよ」


「早く要件言え。こっちは急いでんだよ」


「はいはい。そんな怒んなって。
聞いて驚くなよ。実はさ……」


「は……?」


ガタン。


「え……?」


するりと遥の手から滑り落ちたスマホ。


「は、遥……?」

「は?いや、なんで……っ、」


一瞬、ポカンと目も口も開いたままになった遥。

でもすぐ、慌てたようにスマホを拾って、清見さんに問いかける。


「なんで胡桃が……っ、え、は?
今から?」


え、なに?どうしたの?


「遥……?どうしたの?」


コソッと声をかけたタイミングで電話を切った遥は、わけがわからないというように、髪をぐしゃぐしゃした。


「俺もよくわかんないんだけど、清見が今から学校に迎えにくる」

「えっ!?今から!?」


なんで!?


「今からふたりで事務所来てほしいって」


「え……ど、どうして私まで……?」


「いや、ほんと俺も意味がわかんないんだけど、」


日向(ひゅうが)さんが、胡桃に会いたいって言ってるって。
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