もう、キスだけじゃ足んない。
「でもね、君がなんと言おうと、もう変えようがないんだ!決定事項だから!」
「は?」
「撮影はすぐに始まるし、なにより胡桃ちゃんだけじゃなくて、君もよんだのには理由があること、忘れてないかい?」
「……どういう意味だよ」
「ヒロインは胡桃ちゃん、そしてお嬢様の許嫁兼幼なじみ役を、遥くんにやってもらうから!」
つまりは日向くんのライバルだね!
「えっ!?」
「はああああ!?」
許嫁兼幼なじみっ!?
「特別出演ってことでよろしく頼むよ」
なんだこれなんだこれ。
なんだこの展開。
「遥」
胡桃と目線を合わせていた日向さんがゆっくり歩いて俺の前に立つ。
身長は変わらないのに、先輩……いや、今回は。
胡桃の……お嬢様の相手役って立ち位置から、見下ろされている気がして、舌打ちしたくなるのを必死にこらえる。
「よろしくね、いろいろ。
後輩だからって、容赦しないよ」
これはもう決定事項。
同じ業界人ならわかるよね?そう言わんばかりににっこり笑う。
わかったよ。
俺も出るって決まってるなら、そっちのほうが都合がいい。
だって、いくら相手役じゃないとはいえ、胡桃のそばにいられるんだから。
「こっちこそ。
やれるもんならどうぞ。意味ないと思いますけど」
笑っているようで笑っていない、その鋭い目を睨みつける。
胡桃は俺のだ。
ぜったいに渡さない。