もう、キスだけじゃ足んない。


雑誌だけじゃなくて、人気アーティストのMVにまで出るってなって。


これ以上モテてどうすんの、胡桃。

俺もう世界滅ぼす勢いで嫉妬しまくってんだけど。


ほんと無理。

彼女が他の男とラブストーリー……くっそ。


「明日からなんだよね、撮影。
胡桃は?なんて言ってる?」


「とにかく台本読みまくってる」


相手は今人気爆発中の大物芸能人。

引き受けたからには、そんな何回もNGは出せない。


「ううっ……自分から日向さんに跨(またが)るとか無理……!ほんと無理!」


「俺も無理」


俺でさえまだ跨ってもらったことな……あったわ。

でも無理。


「キス……!キスって……!
フリじゃだめなの……?」


ぜったい深いやつしなきゃだめなの……?


「あの監督まじで殺す」


ただ単に、おまえが見たいだけだろーが、あのエロオヤジ。


「はぁ……」

「胡桃……」


落ちこむ彼女を腕の中に閉じ込めて、ぎゅっと抱きしめる。


『遥以外の男の人と……ほんとにいやだ』


俺もいやだよ。見たくない。


「胡桃……」


くっそ……。

なにもしてあげられない自分が歯がゆすぎて腹が立つ。

今からでも、引き受けたのなかったことにして……。


「でも……」


がんばる、から。

力のこもった声に、のどまで出かかったそれをなんとか飲みこむ。


「ん。俺もいるからな」
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