もう、キスだけじゃ足んない。


そっと目を開ければ、飛び込んでくる遥の……ううん、私の執事。

執事としてだけじゃなく、一人の男の人として、私に向けられる掠れた甘い声と、愛を紡ぐ瞳。


「私はお嬢様のことが、ずっと、ずっと好きでした」

「はい……私、も、」

「私も?」

「あなたのことがずっと……好き、だったの」

「お嬢様……っ」


報われない恋、秘密の恋。


芸能人と一般人。

周りの目や、世間の声を気にしてしまう自分。

どうしても、自分たちの恋愛とを重ね合わせてしまって、一瞬チクリと胸が痛んだ。


「私と、付き合っていただけますか」

「喜んで……」


その言葉と同時に。


「んっ……!」


落ちてくる甘いキス。

でもそれはすぐに深くなって。


「口あけて」


はる、か……っ。


「大丈夫。俺にぜんぶ預けて、息つらくなったら、教えて」


一瞬唇が離れた隙に、耳元で囁かれた優しい声。


心の声で、いい……?

息もできなくなるくらい激しくて、撮影中だってことも忘れちゃうくらい、全身がとろけそうなほど甘いキス。

歪む視界の中で、なんとか心の声で問いかけたら、遥はそれでいいと言うように、甘く微笑んだ気がした。


「ん……っ!」


ゆっくり口をあけたとたん。

すべりこんでくる熱い舌に、くらくらめまいがする。


「っ……ふっ、ぅ……」


いつもふたりきりでキスするときは、「好きだよ」「かわいい」って何度も言ってくれるけれど、今は演技中だからもちろんない。


でも。


好きだよ、大好き、かわいい、離したくない、一緒にいたい。


遥のキスが、ふれてくる手が、体温が、脳が揺さぶられるくらい、そう強く叫んでいるから。


遥、遥……っ。

とまらない。


私も好きだよ、大好きだよ……っ。

心の声で、ふれてくるキスに応えるように自分から舌を絡めれば、遥の唇はますます深くなって。


遥のジャケットを握りしめていた手は、いつの間にか両手ともぎゅっと指が絡んでいた。
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