もう、キスだけじゃ足んない。


遥が先輩が歩いていったほうを見ているうちに。


気づけば、遥と私の間の距離、約2メートル以上。

ちょうど心の声が聞こえない距離。


「いや、遠すぎだろ」

「ふ、ふつうじゃない?」

「声上ずってるけど」

「……」


「……なんで離れんの」

「離れてないよ?」

「離れてるだろ」


遥が一歩近づくのと同時に、私も一歩下がる。


「しかも目まで合わないんだけど、どういうこと?」

「うっ」


正面から鋭い視線をビシバシ感じるけど、その全てを交わして不自然なくらいに、横を向く。


「くーるーみー?」

「っ……」


声が右に上がってってる……。

ちらりと見えたおでこには青筋が見えて、明らか不機嫌ですって言わんばかりの表情。


ううっ……だってだってだって!

私だって何も考えなしに、遥を怒らせたいわけじゃないんだよ!


今になって、急にはずかしさが込み上げてきたというか……。


撮影前に、ずっと俺のこと考えててって約束したのはあるけど、先輩を遥に重ねちゃったのは本当に無意識だったし、それを先輩にも、遥にも見抜かれてて……。

それに一番は……。


「あ、目合っ……なんで、逸らす」

「だって……」


遥、かっこよすぎなんだよ……!


執事服の姿なんて、演技のときに散々見たし、

とにかく集中しなきゃってそればかり考えてたから特別気にならなかったけど、改めて姿を見たら、もうだめ。

こんなに大人っぽくてかっこいい人と、みんなの前でキスしたり、抱きしめ合ったりしたんだって思ったら、自分の彼氏なのに、ちゃんと遥を見られなくて。


ふたりになった瞬間。

もう、いろいろ爆発しそうなんだよ……。
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