もう、キスだけじゃ足んない。


「文化祭でウエディングドレス着てたのも最高によかったけど、今の格好も、ほんとにかわいい」

「っ……」

「いや、でもこんなマーキング……えっろいキスマークつけてるお姫さまなんかいないか」


「っ!?」

「みんなのじゃなくて、俺だけのお姫さまだよ、胡桃は」


いつの間に……!

一人であわあわしているうちに、いつの間にか鼻がぶつかるくらい近くにいた遥。

「隙だらけだよ、胡桃。
俺がふだん、どんだけふれたいと思ってんの」

「な……っ」


「離れたいなら、もっと徹底的にやらないと」

「ううっ……」


「ま、そもそも離してやらないけど」


耳に注ぎ込まれる声は砂糖を煮詰めたみたいにとろりと甘くて。


「ま、待って……っ」

「待たない」


グッと腰に回った腕。

何もかも見透かされてるような、クスッと笑う弾む声に心臓が跳ねる。


「敏感だね。これって俺の所為?」

「っ、あ……ぅ、」


するりと頬をなでた指が、耳から首へ伝って、撮影中につけられた痕の上をなぞって、ピクリとする。


「さっきの話、だけど」

「さっきの話って……」

「うん。ぜんぶほしいって、言ってたやつ」


「ん……っ」


ゆっくりゆっくり首すじをなでていた指が、下へ下へと落ちてきて。


「はる、か……っ」

「は……、かわいい」


羽織るカーディガンの中へと侵入してきて、引っ掻くように肩から二の腕をなでられたら。


「やっ……ぅ、」

「体あっつい。なんで?」


頭、ぼーっとする……。

元々熱くなっていた体は、ほんの少しの刺激でも反応してしまう。


「胡桃、キスしたい……口、あけて」

「だめ、こんなとこで……っ」

「大丈夫。だれも来ないよ。
もういいかげん、胡桃にふれたい」

「でも……んんっ、」


抵抗なんて、ただの悪あがき。

するりと入り込んできた舌は、とびきり熱くて甘くて。


「ふっ、あ……!」


絡められたのは一瞬なのに、毒が回ったみたいに全身がビリリと痺れる。


「プレゼント、していい?」


プレゼント……?

途中唇が離れるタイミングで囁くように言われるけど、ふれあったままだから、私は心の声で応えるしかできなくて。


「そう。今胡桃が着てるみたいな、お姫さまみたいなやつ」


なんで、急に……っ。


「知ってる?
男が女の人に服をプレゼントする意味」


意、味……。


「目とろんてしてる……かわいい。
頭、回んない?」

「っ……そんな、」


ちゅっ、ちゅっ、って、今度は小鳥が啄むような優しいキス。

眼差しこそ優しいけれど、やわらかく細められた瞳はずっと開いたまま私を見つめていて。

少しふれられただけなのに、こんなに体火照らせて、反応してる姿をずっと見られてるんだって思ったら。


「ふっ、ぅ……」


熱とはずかしさで視界が滲む。

軽くキスするだけじゃこんなに体熱くなったり、ぼーっとしたりなんてしなかったのに。


ぜんぶ、遥が……。


「っ!!」

「ふ、ぅ……っ、え、はる、か……?」
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