もう、キスだけじゃ足んない。
遥のせいだよ。
そう心の声で言おうとした瞬間。
グッとものすごい力で引き寄せられて。
「もう……っ、限界……」
「はる、か……?」
ぎゅうって。
後頭部と腰に力強く回った腕。引き寄せられて、一ミリも離れることは許さないと言わんばかりにぴったりくっついた体。
「はぁ……」
トンっと肩に頭がのって、何かを我慢してるみたいに、遥はもう一度深く息をはいた。
「好きだよ」
「え……?」
「好きだよ、胡桃。大好き」
「はる……」
「さっき楽屋で、無駄に考えさせるようなこと言って、ごめん。俺の行動で、」
胡桃を傷つけたくなかった。
「傷、つける?」
グッと回された腕に、より力がこもった気がした。
言葉を探すように、今から言おうとしていることを何度も噛みしめてるみたいに。
「本当は、胡桃の気持ちの準備ができるまで、我慢しようと思ってた」
うん……前に遥、言ってくれたよね。
『俺だけの勝手な気持ちで、胡桃に負担かけたくないのも本当。俺たちは俺たちなりに進んでいけばいい』
『この先もずっと付き合っていくんだし、俺たちのペースでゆっくり進んでいこうな』
って。
「けど、もう無理……」
くしゃりと後頭部の髪をかきあげられて。
「胡桃……」
「ん……っ」
うなじに一つキスを落とした遥は、そのまま顔をうずめて。
「もう、足んない……」
「え?」
「キスだけじゃ、足んない……」
「っ……」
「胡桃のこと、ぜんぶほしい」
切羽詰まったように低く掠れた声。
首を掠める熱い吐息。
何かを我慢するように、堪えるように。
縋るような、胸がぎゅっと締め付けられるような、苦しそうな声。
「胡桃を好きになったときからずっと、胡桃の丸ごとぜんぶがほしくてしょうがなくて」
「うん」
「それは心だけじゃなくて、体も、ぜんぶ」
「っ……!」
「胡桃の心の声が聞こえるようになってから、俺にこうしてほしいとか、寂しいとか素直な本音がますます伝わってきて、」
「うん……」
「今回の日向さんの件もそう。俺が仕事でいないとき、そばにいないとき、他の男が近づいていないかとか心配でたまんなくて」
「指輪贈って、結婚の約束もしてるのに、胡桃とこうしてるたびにもっともっと好きになって、胡桃が好きすぎて、どうにかなりそうで」
「物とか口約束だけじゃなくて、もっと確信がほしい。今以上に、離れてても胡桃には俺でいっぱいになっててほしいし、俺も胡桃でいっぱいになっていたい」
「……」
「埋まらない。隣にいるのに、それだけじゃもう足んない。ぜんぶを俺のにして、胡桃も俺を胡桃のものにして」
矢継ぎ早に告げられていく甘い言葉に、頭がくらくらして。
それは遥の限界なさを表しているようで、それだけ私を欲しいと全身で叫んでいるようで。
「こんな焦った気持ちで胡桃にキス以上のことしたら、朝まで離してあげられないだろうし、ひどくする自信しかなくて」
謝ることしか、できなかった。
「はる、か……」