もう、キスだけじゃ足んない。


「胡桃」


確かめるように、そっと壊れ物を扱うかのように優しく呼ばれた名前。

ドキンドキンドキン。


うるさい心臓の音を尻目に、ゆっくりゆっくり視線を合わせれば。


「っ……!」


「本当に、いいの?
意味、わかってる?」


これでもかと目尻が下がって、何度も激しい葛藤を繰り返しているような、苦しそうな表情。

それでもどこか期待が入り交じったその瞳に、今にも泣きたくなった。


波のように押し寄せる葛藤の中で自分の気持ちを押し殺してでも、私を気遣ってくれる優しい遥が。


胸が張り裂けそうなくらい。

好きで、好きで、好きで、たまらなくて。


「遥……」

「うん」

「私……、私だって……っ」

「うん」


そっと包み込まれた両手。

顔を上げれば、ゆっくりでいいから。

そう言うように、優しく微笑んでいた。


私ね。


寂しいって思うたびに、ふたりの時間がなくなって、離れなきゃいけないって思うたびに。

遥が他の女の子たちにカッコイイって言われるたびに、遥は私のだって叫びたくて。

心の準備なんて、もうとっくに。


はるか……遥……っ。


私だって、もうキスだけじゃ足らないよ。

遥のぜんぶがほしいんだよ。


「くる……」

「脱がせて……」

「っ!!」

「プレゼントする意味って、脱がせたいって意味だって、聞いたこと、あるから……」


「胡桃……っ」
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