もう、キスだけじゃ足んない。


「遥ー!」

「胡桃ちゃーん!」


っ!?この声!?


「清見と……」

「河内さん!?」


ハッと目を開けて声がしたほうを見れば、血相を変えて、走ってくるふたりの姿が。


「清見さんはわかるけど、なんで河内さんまで……って……遥っ!」

「うん?」

「早く下ろして!?」


ふたりが来ちゃう前に!

見るからに何かしてましたって言ってるみたいで、はずか死ぬ……!


「だめ」

「なんで!?」

「ここでお預けくらうとかまじで勘弁だから。どうせろくなことじゃないだろうし、無視しよう」

「えっ、無視!?」


いいの!?マネージャーさんだよ!?

飄々とそう言うと、遥はふたりが向かってくるのとは逆方向へスタスタ歩き始める。


「こらー!遥ーーー!
マネージャーの俺を無視するんじゃねー!」

「待ちなさい遥くん!
お姉さんの言うこと聞きなさい!」


「……うるっさ」


辺りに響き渡るくらいのボリュームで叫ぶふたり。

すごい剣幕……もしかして大事な話、とか……?


「おい、遥ー!」

「遥くん!」

「は、遥……」

「はぁ……」


どうしようと思っていたら、後ろからもう一度叫ばれて、さすがの遥も、わざとらしいほどに大きなため息をついて止まった。


「なんの用か知らないけど、無視するほうがあとからめんどそうだし、ちゃっちゃっと済ませる」

「う、うん……」


「けど、胡桃はこのままな」

「なんで!?」

「どうせふたりで部屋行くんだし、いいだろ」


ぜんぜん良くない!


「ほーら、暴れない。
さっさと済ませてふたりになろ?」


必死にジタバタする私を、意地でも下ろさないと楽しげに笑う瞳は爛々としていて。

これは絶対に下ろしてくれないやつ……。


「やーやーや!
ごめんねー、邪魔しちゃって!」

「ほんとに」

「お姫さまだっこなんかしちゃってー!ふたりでなにしてたの〜?」

「用件はなんですか」

「ちょっ、遥!」


お仕事一緒にしてる人に、そんな答え方して大丈夫なの!?

ちょっとちょっと〜!なんて口に手を当ててニンマリする河内さんを遥は華麗にスルー。
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