もう、キスだけじゃ足んない。


「っ!!」

「えっ、遥!?」

「遥くん!?」


瞬間。


遥!?


みるみるうちに真っ赤になる遥の顔。

さっきも赤くなってたけど、それ以上に、首まで真っ赤……。


「……」


えっ……な、なに……!?

ちらりと向けられた視線は、ふたりの前だと言うのに、明らかな熱と色を含んで、目の縁まで赤くなってて。


「ほんっとずるい……いつも俺より何倍も上手で」


え……?

ツンと口を尖らせて、少し拗ねたような顔。


「ほんと胡桃には敵わない……」


けれど囁かれたその声はあまりに小さくて、遥の顔を見てはしゃぐふたりの声にかき消されてしまった。


「それで?なに、話って」

「そのことなんだけど……」


なんとか?落ちついたらしい遥。

とにかく下ろして!と頼んだけれど、それだけは悲しくも聞き入れてもらえず。

逃がさない気、満々……はずかしい。


「なに?言うなら早く言って」

「今日の部屋割りのことなんだけど、」

「もちろん俺は、胡桃とふたりですよね。
清見にも何度も念押ししましたし」


食い気味に、被せるように。

さもそれが当たり前のように、にっこり笑う遥に、清見さんの顔が急速に真っ青になっていく。

え、この反応……もしかして、もしかする?


「ごめん!ふたりとも!」

「は?」

「え?」


私の予感はどうやら的中。


「今夜は、遥くんは清見さんと、胡桃ちゃんは私と同室で!」

「あ゛?」

「ええっ!?」


パンッと両手を合わせた河内さんは、ぎゅっと目を閉じて、もう一度ごめんなさいした。


「は?胡桃じゃなくて、清見と同室?
本気で言ってる?ハハ、冗談やめてください」

めっっっちゃ早口……。

この間1秒。

ついさっきまで落ちついてたのに!

過去最高に凶悪な顔してるんだけど!


それだけ私とのふたり部屋を望んでくれてたってことでうれしいけれど、その顔どうにかしよう!?

でも、どうしてこんなことに……?


「さっきふたり、日向くんと出ていったきり、戻ってこなかったじゃない?そしたら監督がバカップルはほっといて、スタッフから好きな部屋選べ的な話になってね?」


「それで?」


「けどスタッフが予約の部屋数を間違えちゃったみたいで、私たち4人で残り2部屋しかないの。しかも部屋はセミダブルベッド」


「それで?」


「清見さんとふたりなんてあたしが嫌すぎるから、男女別にしようと思って!」


「はあ?」


「ふたりならいつでもふたりきりなれるじゃない!ここはあたしたちに譲ってよ!」


「は、嫌で……」


「俺だって嫌ですよ!河内さんと同じなんて!」


「願い下げなのはこっちのほう!あなたと同室なんて、死んだほうがマシよ!」


「そ、そこまで言いますか……!?」


腕を組み、フンっと思いっきり顔を背ける河内さんに、愕然とする清見さん。

ふつうこういう部屋って、出演者とスタッフさんは別部屋ってイメージがあるけど、今回の主役はあくまでも早生先輩だから、私たちはスタッフさんと同じ部屋の区分にされちゃったのかな……。
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