もう、キスだけじゃ足んない。
「胡桃」
「えっ、はる……んむっ」
「しー……今のうちに。さっさと行こ」
えっ!?
人差し指をそっと唇に当てられ、ドキドキするも、それはほんの一瞬。
私たちがいるのもお構いなしに言い合いをヒートアップさせるふたりを尻目に、足音を立てずにサッサと歩き始める遥に、またしどろもどろ。
「い、いいの?ふたりのことほっといて……」
「いいんだよ。ていうか、大の大人が騒ぎすぎ。
さっさと腹くくればいいだけのこと」
「っ、でも……!」
「さっき言ってくれた言葉はうそ?」
「へ?」
「俺のこと、早くほしいってやつ」
「あっ、それは……っ」
「言ってたもんな、紛れもなく本心だって」
「そこまで聞いてたの!?」
「聞こえたんだよ、ごめんな?」
「うっ……」
ずるいその顔。
眉を下げて、心から反省してるみたいに、シュンとした表情。
私が弱いってわかってて、わざと……。
「とにかく早く行かないと、ふたりに捕まる……」
ガシッ!
「は?」
「え?」
血走った目、低い声。
「逃がさなさいわよ、遥くん」
「逃がさねーよ、遥」
「……」
「はぁ……」
まるでゾンビのようなふたりに。
「は、遥……」
「はぁ……まっっっじで最悪」
ということで。
「やっとだったのに……」
結局この夜は、お預け?に、なりました……。