もう、キスだけじゃ足んない。


「それで結局お預けになっちゃったの!?」

「うん……」

「かー!まじかー!
千歳っち最悪じゃん!」

「桃華もそう思うよね?
あたしならブチ切れるかも……」


それから女子トークに花を咲かせる私たち。

この間のMV撮影の話が聞きたいって桃華に言われて、あーちゃんには前に話したけどもう一度。


途中執事役が変わったこと、そしてそのあとの遥とのやりとりもすべて話した。

結局最後には土下座までされて、もはや折れるしかなかった遥。


あとからげっそりした清見さんに聞いた話、ホテルの部屋に入ってから朝まで、遥、一言も話さなかったらしい……。


「でもさー、遥くん、なんだかんだでめっちゃ優しいよね。自分だっていっぱいいっぱいなはずなのに、めちゃくちゃ気遣ってくれて」


「わかる。あんな無愛想の塊のどこに隠してんだって言いたくなるけど、男としては花丸だわ」


「それな〜!そんなこと言ってくれる男の人、この世の中どこ探してもなかなかいないと思う。胡桃のこと、本当に大事にしてるんだね」


あーちゃんも、桃華もウンウンうなずく。

お仕事のこと、学校。

自分のことで精いっぱいなはずなのに、いつも気遣ってくれて、私を第一に考えてくれる遥。

そのためにって、私もなるべくツンツンしないで、素直になって遥に応えたいって、気持ちを伝えたけれど……。

結局何もないまま終わったあの日から、遥は朝から夜までずっとお仕事。

何日も泊まり込みで準備してる日もあるらしく、何日も会えないときもあって。

家でご飯を作っていることしかできない自分が歯がゆくて、もどかしい。


「けどさー、いつの間にそこまで進展してたの?」

「えっ!?」

「それな!そういうことするの、胡桃めちゃくちゃはずかしがりそうだし、もっと先だと思ってた」


「そ、それは……」


「おそらく遥くんの限界が先に来たんだろうけど……胡桃も同じ気持ちだったんだ?」


目をキラッキラにさせて、ずいっと顔を近づけてくるふたり。

姉と友達に、自分の恋愛事情がこんな筒抜けなのめちゃくちゃはずかしい……。

本当、穴に埋まりたいくらい。
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