もう、キスだけじゃ足んない。
「あーちゃん声大きい!
びっくりしたって!」
「それはごめんって!
えっ、でも桃華、ほんとに!?」
「……うん」
「きゃああああーーーッ!」
「ああっ、もうーーー!はずかしいーーー!」
もう無理!耐えられない!と最後は両手で顔を覆って、俯いた桃華。
うそ……?ほんとに?
まじですか、桃華さん……。
杏も、いつの間に……。
「桃華!いつ!?どこで!?」
桃華が杏と。
その事実に口をポカンと開けるしかできない私の横で、鼻息が荒いのにも気にせずに、いくつもの質問を投げかけるあーちゃん。
「1ヶ月前……Mateの撮影の1週間後の日曜日に、杏の部屋で」
「結構前だね……えっ、でも付き合って2週間くらいしか経ってないよね……?」
言われてみれば、そうかも。
付き合ったって話を桃華と杏から聞いたのがMateの撮影の前日で、その1週間後に、だから……。
「うん、自分でも早いって思ったよ。杏も。
でもね、」
「うん」
「今、杏、ライブの準備で忙しくしてるじゃない?胡桃もそうだと思うけど、ふたりとも、2ヶ月近くバタバタしてて、会えない日も多くて」
うん。
遥も言ってた。
同じ家に住んでいるのに、すれ違ってるみたいな状態。
学校もほとんど来てないし、朝から晩までずっとお仕事。
文化祭のときみたいに、またホワイトボードでやりとりしてる生活。
朝起きれば、作った夜ごはんと朝ごはんはぜんぶキレイに完食してくれてて、洗い物まで。
大丈夫だよ、それくらいやらせてって何度も言ってるけど、遥はいつもありがとうってメッセージを残すだけ。
お仕事だって、仕方ないって分かってる。
でもその優しいメッセージを見るたびに、苦しいくらいに寂しくて。
会いたい、声が聞きたい、抱きしめてほしい。
日に日に膨れ上がる気持ちは、胸が押しつぶされそうなほど大きくなって。
遥が、たりない……。
「時間がすべてじゃないと思うんだ。しばらく離れきゃいけないってお互い分かってたし」
「今も寂しくないって言ったら嘘になるけど、つながってるのは心だけじゃないって思ったら、ものすごい心強いよ」
「なんか桃華、この短期間のうちにすっごく大人っぽくなったね……」
「うん……」
桃華、すっごくキラキラして見える。
自信満々っていうか、ますます杏への気持ちが大きくなって。
好きな人にふれてもらえること。
抱きしめてもらえること。
それは女の子を無敵にさせる魔法みたいなもの。