もう、キスだけじゃ足んない。


ふと近くで聞こえた声と視線。


「そういえば遥くんって、溺愛してる彼女がいるって噂、あるよね?」

「あー、聞いたことあるかも。
え、もしかして、あの子がその彼女?」

「……胡桃、行こう」


あーちゃんが私を庇うように、その子たちの視界から隠すように歩いてくれる。

マスクをしているのに、どうしてわかるんだろう、私だって。


「へえ、あの子が」

「めっちゃ可愛い子じゃん。MV見たときから思ってたんだよね、お似合いじゃない?」

「そう?あたしはそうは思わないけどなー」

「え、なんで?」


「だってさ、」


一般人の分際で、彼氏と同じ事務所の先輩のMVに出るなんて、調子乗りすぎでしょ。


「っ!!」

「っ、あいつら……MVに出たのは日向さんのオファーがあってなのに」

「いいよ、あーちゃん」

「でも……っ!」

「いいよ。勝手に言わせとけば」
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