もう、キスだけじゃ足んない。


ブーッブーッー……。


「胡桃」

「はる、か……?」


どこか名前をよばれた気がして、グッと目元を拭ってスマホをとれば。


遥……!?

えっ、なんで……今日は帰れないってメッセージ……。

それにお仕事中じゃ……っ!?


「もしもし!?」

「ふはっ、珍しく大きい声。どうしたの?」

「はる、か……」


クスクス笑う、あたたかくて優しい遥の声に。

こらえたはずの涙がまた出そうになって、グッと飲みこむ。


「どうしたの?こんな時間に、珍しい……」


泊まりになるって連絡も来たし、まさか電話がかかってくるとは思わなかった。


「胡桃」

「え?」

「胡桃が、俺を呼んでる気がして」


「っ……」

「胡桃?」

「なんでも、ないよ……」


どうして分かるの。どうして今、そんなこと言うの。

声が震える、泣きたくなる。

遥の優しい声に、喉の奥まで出てかかったものをすべて吐き出したくなる。

もし電話越しじゃなかったら、きっと心の声が聞こえて、もうとっくに崩壊してただろうから。

「とか言って、俺が声聞きたかったからなんだけど」

「……」

私もだよ。

メールだけじゃなくて。

声、聞きたかった。
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