もう、キスだけじゃ足んない。
「今日の夜ごはんのこと、本当にごめん。俺胡桃の作ったの食べたいとか書いたから、絶対用意してくれてると思って」
「ぜんぜんいいよ。次の日の朝に食べればいいんだし」
さっきメールでも謝ってくれたのに、何回もそう言ってくれるだけで、十分うれしい。
「ちなみになに作ってくれてた?」
「豆腐ハンバーグだよ」
「うっわ、絶対うまいやつ……つーか、胡桃が作ってくれるの、ぜんぶ上手い。ぜんぶ好き」
「えっ!?」
「俺のこと考えたメニューにしてくれるのも好きだし、味つけも、ぜんぶ俺の好み。いつも俺のためにって、大変なのに、本当、ありがとうな」
「っ……」
そんなの。
当たり前だよ。彼女だし、それ以外で遥を支えることができないから。
私も桃華みたく芸能界にいれば、少しはお仕事のこととか分かったり、何かしてあげられるのかもしれないけれど。
私は私ができる精いっぱいのことをするしかできないから。
「ホワイトボードにはいつも書いてるけど、やっぱり声にして言わなきゃ意味ないと思って。いつもありがとう、俺を支えてくれて」
胡桃がいてくれるから、俺、頑張れる。
「っ……」
泣くな泣くな泣くな。
堪えろ。
ただでさえ、MVの件で弱っているところにそんなとびきり優しい言葉かけられたら、もう……。
「胡桃」
「な、に……?」
「泣いてるだろ」
「っ!な、泣いてないっ」
「うそ。声が無理してる」
「っ……」
だめだった。やっぱりだめだった。
遥の優しい声を聞いたら。
電話越しでも伝わる安心する、あたたかさを感じられたら。
いつだって、どんな些細な小さな変化にも気づいてくれるその優しさにふれたら。
「ふっ……ぅ、はる、か……っ」
泣くのを我慢なんて、もう無理だった。