もう、キスだけじゃ足んない。
甘やかし兄弟、天使の誘惑に射抜かれるハート
【うん、今日は早く帰れるよ。
だから一緒にごはん食べて、一緒に寝よう。たぶん胡桃が帰ってくる頃には家にいると思う】
【家着いた。学校まで迎えに行く】
【早く会いたい】
「あーちゃん!先帰るね!」
「おーおー!愛しの彼氏のご帰還か〜?」
「うん!そう!」
「素直になったね〜、胡桃」
翌日。
昨日寝落ちする寸前に聞こえた遥の言葉を思い出して慌てて確認をとれば、返ってきたのはうれしすぎる連絡で。
キキーッ!
走って学校を出て少ししたところで、すぐ横で止まった黒のワンボックス。
「胡桃……!」
「はる……、ん……っ」
開いた窓から呼びかけられた声のすぐあと、気づいたときには遥の腕の中で。
「会いたかった……っ」
「はる、か……っ」
遥だ……やっと、会えた。
抱きしめられてる。遥の腕の中にいる。
ずっと求めていた大好きなぬくもり。
「はー……会いたすぎて、死ぬかと思った」
「うん、私も……っ」
どこか震えた優しい声。
胸いっぱいに流れ込んでくる、私があげた香水のにおい。
この1ヶ月間の隙間をすべて埋めるように、足が地面から浮いちゃうくらい強く抱きしめられて、ささくれだっていた心がたちまちスーッと穏やかになる。
「1ヶ月まったく会えなかったわけじゃなかったけど、なんか何年も会ってなかったみたいな感覚……」
「私も……」
そっと体を離されて覗き込んできたのは、泣きたくなるくらい穏やかで、喜びに揺れる瞳。
「胡桃、ちょっと痩せた?
ちゃんと食べてる?」
「う、うん。食べてるよ……?
ちょっと夏バテ気味で……」
「ん、そっか。家帰ったら横になる?」
「大丈夫。ふつうに元気だよ」
壊れ物を扱うかのように、そっと頬にふれてくる手も、心配でたまらないと揺れる瞳も、とびきり優しくてぎゅっと胸が締めつけられて。
「好きだよ……ずっとこうしたかった」
「遥……」
遥、遥……っ。
もう一度抱きしめられた腕の中、私も負けじと広い背中にぎゅっとしがみつく。
「あのー、おふたりさん。
盛り上がってるところ悪いんだけど、ここ、外だよ」
っ!?
こ、この声……。
「桃華っ!?なんでいるの!?」
「俺もいるよ〜」
「杏!?」
車からひょいっと顔を出したのは、ニンマリ笑ったふたり。
ってことは……。
「この間ぶりだね、胡桃ちゃん」
「き、清見さん……」
ああああ、埋まりたい。
全身が沸騰してるみたいに熱い。
こんなところを3人に見られるなんて……ていうか、遥が車から降りてきた時点で察そうよ、私。