もう、キスだけじゃ足んない。


そんなこんなで車に乗り込んだ私たち。


「杏も桃華も、あとは帰るだけ?」

「そうなの!
超超超ひっさしぶりに休みもらえてさー!」

「俺も。最近まったく休みなくて、桃華不足で死んでたし」

「なっ、杏……!」

「ふふふ」


さらりと甘い言葉を紡ぐ杏に、ボンッと顔を真っ赤にする桃華。

なんか杏と桃華、ますます距離が近くなったような……。

やっぱりアレがきっかけ?

ふたりとも会うのは久しぶりのはずなのに、そうとは思えないくらい、幸せそうで。

私が言うのもなんだけど……ピンクのハートが車内中に飛び交ってて、正直いたたまれない。


「ねえ、遥……」

「うん?」

「っ、なんでもないです……」


手、手……っ!!

さっきから私たちも……指を絡めて手を握ってるだけ、なのに。


「っ……ぅ、」


やばいっ……!

変な声が出ちゃいそうになって、慌てて口を噤む。


「ふっ……」


もう、笑ってないでやめてよ!

心の中で大きく叫んで、いじわるに微笑む遥を睨みつける。

なにそのいやらしい触り方……!?

親指で手の甲や、指の間をすりすりなでられたり、もう一度ぎゅっと握られ直されたり。


「やらしくないよ?
手、つないでるだけ」


うそ……確信犯……!


「そう言って、本当はうれしいくせに。ほら……」

「っ!!」


「もっとって、反応してるよ、体」

「っ、なっ……」


「俺はずっとさわれなかった分、胡桃にふれたい。
一秒たりとも離れたくない」


前に座っている杏たちからは見えないのをいいことに、ピタッと体を寄せられて、時々甘い吐息が耳を掠めて体が震える。

っ……ドキドキしすぎて死んじゃうって……!


「桃華、胡桃」

「な、なに……?」

「このあとさ、久しぶりに4人でごはん食べない?」

「えっ、杏がそんなこと言うなんてめっずらしー!どうしたの??」


「たまにはね。せっかく4人集まってるんだし」

「いいねいいね!あたしさんせーい!」


やわらかく笑う杏の提案に、桃華がパアッと華が咲いたように笑う。


「胡桃は?どうかな」

「うんっ、いいよ」


頭がぽやーっとしていくのを振り払うように、4人でごはんはいつぶりだろう……なんて考えを巡らす。

3人が芸能界に入るまではよく食べてたけど、ここ最近はそれどころじゃなかったから。

うれしい……賑やかなの、すっごく好きだし楽しいから。


遥は、どうかな……やっぱりふたりがいいって言うかな。


「ん、俺もいいよ」


「えっ、ほんとに!?胡桃ラブな遥なら、ぜったいふたりがいいって言うと思ったのに!明日槍降るんじゃない!?」

「失礼な……けどまあ、オフ被んのもなかなかないし。ふたりになるのは、そのあとで存分にできるし」

いっしょに寝る約束も、してるもんな?


「なっ……!」

「わーお!」

「へえ?」


デレデレ頬を緩ませて笑うふたりに、にっこり笑う遥。

もうっ、ほんとにはずかしい……!!

桃華たちいるってこと忘れてない、遥!?


「遥さー、ほんっと胡桃のことしか頭にないね」


「ほんとに。でも俺も桃華のことしか頭にないってこと、忘れないでほしいな」


「それは言わなくていいから!」


ポンポン、テンポのいいふたりの会話と賑やかな雰囲気に、昨日までの苦しいことがぜんぶなかったみたいに、心が軽くなる。


4人でごはん、本当に楽しみ。


「ねえねえ胡桃!なに食べる!?」

「んー、何にしよう?やっぱりからあげ?」

「それは遥の好物だから却下!」


なんて。


はしゃぐ桃華との会話で思わず笑みがこぼれる中で、遥と杏が顔を見合わせてホッと息をついていたことに、桃華も私も気づかなかった。
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