もう、キスだけじゃ足んない。


ひどい隈……疲れた表情。

久しぶりに会った今日、顔を見たとき、あまりのから元気さに、胸が張り裂けそうだった。

俺に心配をかけまいと、無理に笑った顔に、桃華からは見えないところで、両手に拳を作った。

また。

まただ。

またあのときと、同じ。

俺のせいで、桃華への世間の目やあたりが厳しくなっている。

先週から放送が始まったドラマの影響もあってか、俺やbondのファンからのバッシングは、付き合っている噂が始まった当初よりも、ますます過激なものになって。

胡桃も……あまりの細くなった姿に、苦しさを堪えるのに、必死だった。


「おねがい、」

「杏でいっぱいになったら、お仕事、がんばれる、から……」


桃華が苦しんでいる原因は、俺やbondにあるのに。

「無理しないで」「応援してる」

「杏にいるから、あたし頑張れるんだよ」


誰も責めない。苦しいって、こうして酔って、理性が飛んじゃうまで言わないで、抱え込んで。

初めて聞いた、彼女の本音。


俺は、俺たちは……っ。


「杏……?」

「っ……」


「そんな顔、そんな泣きそうな顔、しないで……っ」

そっと頬をすべる手に、視界がぐらぐらする。


「っ、桃……」

「でも一つだけ、」


震えた声。ぎゅっと握りこんだ手に、細くて小さい手が添えられて、包み込まれた。


「おねがい……っ、杏の好きにして……っ」

「桃華……っ」


「杏に、たくさん愛してほしい……っ」


なんて、言われたら。


「気分は?悪くない?」

「ん……」

「無理してない?」

「ん……」

「ほんとに?」

「っ、いいから、早く……!」

「っ……ごめん」

「杏……んんっ、」


できる限り優しくしたい。

そう思うのに。

とまらない。

目の前の愛おしい存在を、ただただ愛したくて。


こんな自分勝手で、我慢ばかりさせている俺でごめん。

桃華。


─────今夜も、優しくなんて無理だ。
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