もう、キスだけじゃ足んない。


なぜかあーちゃんと一緒に走ってきたのは、早生先輩。

会うのは、MVで撮影したとき以来だ。

制服姿は初めて見たけど……そういえば同じ学校だったっけ。

「何しにきたんですか、日向さん」

「帰ろうとしたら、たまたまこの子に会って、一緒に来てって言われて。ていうか、甘利……おまえもいたの」


MVの件を知っているのか、厳しい顔で私の前に立った甘利くんに、先輩は苦笑い。


「胡桃ちゃんのことは諦めるって、遥とも約束したし。そんな邪険にしないでよ」

「どうだか。あんたのMVがきっかけで橘は……」

「あー、ハイハイ!今はそういう言い合いしてる場合じゃないから!ふたりとも!」


ヤレヤレと額を押さえてふたりの間に入ったあーちゃんは、まっすぐ私を見つめた。


「胡桃、桃華、聞いて」

「甘利くんと日向さんが女の子たちを正門まで引きつける。その間に、胡桃とあたしは裏門に、桃華は胡桃を回収、すぐにホテルに向かって」

「えっ、でも……」


そんな、悪いよ……。

「大好きな親友たちのためだもん!
ふたりが苦しんでるの、そばにいてあげることしかできなかったから……これくらいやらせてよ!」

「そんなこと……」


あーちゃんがいてくれなきゃ、私は……。

一瞬目を伏せたその姿に、胸がぎゅっと締めつけられる。


「俺も」

「え?」

「遥にも、橘にも。文化祭のときは散々振り回しちゃったし。そのお詫び」

「俺も。ごめんね、俺がMVに出てくれって頼まなきゃ、こんなことにはならなかったから。本当にごめん」

「早生先輩……」

「ほんとにそうですよね」

「あ、甘利くん……」

「だからその分、日向さんにはきっちり働いてもらわないと」

「甘利……俺おまえの先輩なんだけど」

「知りませんよ。好きな子傷つけておいて、なに先輩風吹かしてるんですか、みっともない」

「甘利くーん!今はそこじゃないから!」


あーちゃん、甘利くん、早生先輩……。


「5分後に車回すから!
あすみ!胡桃のこと任せたよ!」

「了解!桃華も気をつけて!」


「じゃあ俺たちも」

「いろいろお詫びも込めて、しっかり働きましょう」

「おまえ、女嫌いなのにいいの?」

「別に。橘のためならなんでも」


「甘利くん……先輩……本当に、ありがとうございます」

「いいんだよ、胡桃ちゃん。俺の方こそいろいろとごめん」

「気にしないで橘。
気をつけろよ」

「行こう、胡桃!」

「うん!」


みんなの優しさにまた目元が熱くなる。

本当にありがとう、みんな……。
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