もう、キスだけじゃ足んない。
「胡桃!忘れ物ない!?」
「ありがとう!大丈夫!」
それから急いで教室に戻って、カバンを持って裏門へとやってきた私たち。
「さすが……裏門は暗いだけあって誰もいないわね。これなら無事に桃華と合流できそう」
「うん」
一応、桃華が来るまで、校舎の影に隠れる私たち。
桃華、無事に来られるといいけど……。
ブーッブーッ……。
【着信、桃華】
「もしもし、桃華?」
「胡桃!裏門着いたよ!」
「今行く」
「おっけ、誰もいないね……よし、行くよ!」
「うん!」
門のすぐそばに停まった車まで、あーちゃんとダッシュで走る。
「胡桃!」
「桃華!」
ガラッと車のドアが開いて、桃華が私へと手を伸ばす。
「よし!もうちょっと!」
そう、あーちゃんが叫んだときだった。
「あなたが、橘胡桃?」
「っ!!」
ゾッと背筋が凍りつくほどの、地を這うような低い声。
車が停まっているのとは反対側から、ゆらりと歩いてきた一人の女の子。
他校の制服を着たその子は、夕闇で辺りが暗くなり始める中、目を吊り上げて私を見ていた。
「胡桃!ここはいいから!早く乗って!」
「あーちゃん!」
「どいて!離して!」
「だーれが離すもんですか!このクソ女!」
無理に私の方へ向かってこようとするその子の肩をガシッと掴み、あーちゃんは怒鳴り散らす。
「あんたなんか!あんたさえいなければ!」
「別れてよ!遥くんと別れなさいよ!」
「っ!!」
血走った目で鬼の形相で睨んでくるその顔に、思わず足がすくんで動けなくなる。
「あんたが……あんたがいたから、私の遥くんは落ちてしまった……変わってしまった」
「っ!!」
「別れなさい!今すぐ!今ここで!
あんたみたいな凡人、遥くんには似合わないのよ!」
はぁはぁと息を荒げ、声を張り上げるその子。
けれど、次の瞬間。
「さっきから聞いてれば……ごちゃごちゃうっさいのよ!黙れ!」