もう、キスだけじゃ足んない。

***


ふわふわ。

心地いい、あたたかい微睡みの中で、優しい手が何度も私の髪を梳いてくれる。


「ありがとう。
俺たちのためにって、言い返してくれて」


ファンの子が学校に来たとき、私が言ったこと。


どうして、遥がそれを知ってるの?


なんて。疲れと、遥の腕の中に閉じ込められた心地良さで、眠気に襲われる私は口にできないから。


「桃華がそう言ってたって、杏から聞いた」


心の声でいいよ。

そう言うように、ふわっとおでこに落ちてきた優しいもの。


そんなの、大したことじゃない。

だって、大好きな遥たちのためだから。


「ありがとう」

「いっぱい泣かせて、ずっと我慢させて、本当にごめん。頑張ってくれて、ありがとう」


はる、か……。


「あとは俺たちに任せて」

「うん……」


胡桃、大好きだよ。


その言葉を最後に、私は夢の中へと落ちていった。

遥とふたりで笑い合う、幸せいっぱいの夢の中へ。
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