もう、キスだけじゃ足んない。
「この日のために僕たちが作詞した曲です。聞いてください……『僕の世界が色づくのは』」
瞬間、淡い真っ白なライトがふたりを照らして。
一度目を閉じた遥がすうっと息を吸って、マイクに優しい声を吹き込む。
君と出会ったあの日から
君に名前を呼ばれたあの瞬間(とき)から
好き この胸の高鳴りは
何年も変わらないまま ずっと僕の中で
根づいて 芽吹く運命だったんだ
ふたり歩いた道のりも
ふたり過ごした部屋の空気も
僕にとっては すべてが一生の宝物で
かげかえのない日々だった
君がいなくなったとき
僕の毎日は ただ空っぽで 無意味で
叫んで 泣いて
声が聞きたい また笑ってほしい
僕が僕じゃなくなるくらい
僕が僕でいられないほど
君は僕のすべてだった
そして、杏の落ちついた声が会場を包む。
いつかの一人きりの世界で
なんでもない 大丈夫だよと
泣きそうに笑う君が
どうしようもなく 愛おしくて 切なくて
守りたい 抱きしめたい
流せずに閉じ込めた涙も 本音も
僕がすべてを受け止めたい
そう強く思ったんだ
時折お客さんの姿が映って、みんな泣きながらふたりを見ている。
そして、気づけばふたりのデュエット、最後のサビへと移り変わって。
まるで世界がカラフルに色づいていくように、真っ白だったライトが虹色のグラデーションに切り替わった。