もう、キスだけじゃ足んない。


早く、はやく……っ、遥に会いたい……っ。

その一心で車を降りて、関係者入口から、中へと入る。


出演者楽屋。

そう書かれたドアが見えて、桃華も私も一心不乱に走る。

そして。


「杏!」「遥!」


「もも、か……なん、で」

「っ、ばか……っ!」


ドアを開けて驚いたふたりの姿が見えた瞬間。

桃華が勢いよく杏に抱きついたのが視界の端で見えて。

「胡桃……今、連絡しようと思って……っ、!」


大好きな遥の姿に、また涙が溢れて。


「っ、はる、か……っ」


言いたいことも、伝えたいことも、山ほどあるのに。

「っ……」


何も、言えない……っ。

何も、出てこない。

ただもう、遥が好きって気持ちだけが溢れてとまらなくて。


「っ……くる、み……っ」


ぎゅうっと抱きしめられた腕の中で、泣き続けるしかできなかった。
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