もう、キスだけじゃ足んない。
「桃華のこと、好きすぎて泣きそうだよ……」
「なに、言ってるの……んぅ、」
そっと額に落ちてきた熱が、ふれるだけのキスを唇に落とす。
泣いたから、頭くらくらするだろうし、座ろうか。
そっと腰に手を当てられて、近くのソファーにふたりで座る。
「解散することと、引退すること……何も相談せずに、決めてごめん」
「ううん……っ」
杏の声、優しい……。
膝の上にあった両手をそっと包み込まれて、隣に座る杏を見つめる。
「本当は、解散と引退の話、もう3ヶ月くらい前に出たんだ」
「えっ、そんな前に……?」
「うん。ちょうど、遥が胡桃と付き合い出した頃かな。最初は遥が言い出したことだったんだけど、俺ももうそのときから考えてたんだ」
「どうして……?」
「桃華のこと、支えたくて」
「それ……さっき、ステージでも言ってたよね?」
「うん。まだ芸能界に入ったばかりの頃さ、桃華、俺のせいでいろいろ言われてた時期あったじゃん……?」
「うん……」
つらいこと、思い出させてごめん。
そう言って、杏は苦しそうに顔を歪めた。
まるで、何かを必死に後悔しているみたいに、あたしまでグッと喉の奥が熱くなる。
まだデビューして間もなかった杏だったけど、その人気はすごくて。
まだまだ駆け出しモデルのあたしが幼なじみだって業界に知られた時、杏を好きな子から、まあ、いろいろと。
「あのとき、ずっと後悔してた。俺がやめるように言えば、ますます桃華への当たりは強くなるって思って、何も言えなくて」
「うん……」
「桃華が一人前になって、雑誌の表紙を飾っても、
まだそういうことを言う人がいなくならないことも」
「うん……」
「そんなときに、遥から引退の話をされて……あのときの後悔をやっと果たせるときが来たんだって思った」
「っ!!」