もう、キスだけじゃ足んない。


「っ、は……」

「んんっ、」


ずっとふれたかった。

ずっとふれてほしかった。

もう前以上に離れることはないんだって思ったら、嬉しくて、たまらなくて。

ねえ、杏。

あたし……あたしもね。


「ね、杏……」

「ん……?」

「あたしもね、やめようと思うんだ」

「やめ……えっ!?」


決心が、ついたよ。


甘い空気から一変。

バッと体が離されて見えた瞳は、驚いたと言わんばかりにまん丸で。

胡桃にも、まだ誰にも言ってない、あたしだけの秘密。

本当は、このライブが終わったら、杏や胡桃たち、マネージャーにも言おうと思ってたんだけど。


「モデルの仕事。胡桃の姿見てて、思ったんだ。あたしもふつうの女子高生に戻りたいって。当たり前のように授業を受けて、ごはんを食べて、行事にも参加して。残りの高校生活、そういう風に過ごしたいって、この間の文化祭のときも思ったんだ」


「桃華……」


「それに……何より杏におかえりって言って、家でご飯作って待っててあげたいなって。まだ胡桃と生活してたときにも思ったんだ。家に明かりがあることや、家で誰かが待っててくれてるんだって思ったら、お仕事も頑張れるかなって」


同じだよ。


「あたしも杏を支えたいって思ってたから、同じだね」


「っ、桃華……っ!」

「うわっ、杏!?」

「はー……好き、桃華」

「うん、あたしも。大好きだよ」


少しはずかしい気持ちもありつつ、目を見て伝えれば、杏はもう一度くしゃっと笑って、あたしを抱きしめる。


まさか杏も同じこと考えてくれてたなんて。

びっくりしたけれど、こんな偶然。

嬉しすぎて、今度こそどこかへ飛んでいけちゃいそうだ。


「桃華」

「うん?」

「ありがとう。俺のこと、いろいろ考えてくれて」

「杏も。あたしのためにって、ファンのみんなの前で、婚約者だって言ってくれたこと、嬉しかった」


正直、さすがにびっくりしたけど。


「うん。だから今から指輪買いに行こうね」

「えっ!?今から!?」

「結局忙しくて買いにいけてなかったから。いくらこれから同じ普通科に通えることになったって、心配」


普通科。

そっか……あたしたち、これから……。


「俺たちが婚約者だってことはファンの人たちが承認だよ!名前とか掘る?それともなんか希望のデザインある?」

「もう、落ちついてよ、杏……」


ふだんはあんなに王子様って感じなのに、ふたりになると急に子供っぽい一面だったり、独占欲を顕にするところが、本当に愛おしくて、大好きで。


「杏と同じなら、なんでもいいよ」


でもその代わり。


「もう一つの指輪は、希望してもいい?」

「っ!!」

「もちろん!」

「ふふっ、」


パアッと華が咲いたみたいに笑う杏の後ろにブンブンと大きな尻尾が見えて、思わず噴き出してしまう。


「桃華」

「うん?」

「愛してるよ」

「うん。あたしも」


どちらともなくキスしてお互い笑い合う。

最高のサプライズをありがとう、杏。

一緒にふたり並んで、幸せになろうね。
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