もう、キスだけじゃ足んない。
***
「引退のことを考えたのは、芸能界に入ったばかりの頃だった」
「え、そんな前に……?」
それってもう、2年前くらい……。
入ったばかりなのに、どうして?
「元々俺が芸能界に入ったのは不特定多数の女にキャーキャー言われるためでも、自分の声を認めてほしいって思ったからでもない」
「前にも言ったと思うけど……さっきのステージでも言った」
「あ……」
遥が芸能界に入った理由。
それは……。
「うん。胡桃を振り向かせたかったから」
「っ!!」
目を細めて、これでもかと優しく笑う遥に、胸がぎゅっと苦しくなる。
「やっと胡桃と付き合えて、両思いになれて。でもそのときに思ったんだ。せっかくまた一緒にいられるようになったのに、胡桃に寂しい思いさせてる。いっしょにいられる時間が、また少なくなってるって」
「はる、か……」
「文化祭のときもそうだし、今回のライブもそう」
「俺が上に行こうとするたびに、また一緒になれたこの距離が離れる。いくら気持ちはつながってても、いくら一緒に住んででも、会えない時間が大きすぎて、もう嫌なんだ」
─────なんて、苦しそうなんだろう。
遥の全身が、つらいと叫んでる。
「それは、中学のブランクもあって尚更。胡桃の顔を見られない、胡桃の声が聞けない、胡桃にふれられない時間がないのは、もう、つらすぎて」
「っ、でも……っ」
私だって嬉しい。
遥と一日一緒にいられるなんて。
朝から夜までずっと。
でも、せっかくここまで大きくなれたのに。
「俺は胡桃だけでいい」
「え……?」
「いくら叩かれようと、俺は、胡桃が胡桃だけが俺の声を、俺の歌を好きだって言ってくれたらそれでいい」
「歌ならどこでも歌える。俺は胡桃といっしょに、胡桃の隣で歌っていられたらそれでいい」
「っ!!」
「この世界中で、胡桃さえ俺の歌を好きだって言ってくれたら、俺はこれ以上に幸せなことなんてない。
自分の歌を捨てることよりも、自分の名声を捨てることよりも、胡桃といられる時間がないことがどんなことよりも苦しいし、つらいんだよ。俺は……」
─────芸能界を捨ててでも、全てを捨てても、ずっと胡桃といたいんだよ。
「っ!!」
瞬間。
『僕の世界が色づくのは』
ふたりが、最後に歌った曲が思い出された。
僕にとっての一番はいつだって君で
僕は 君がいてくれるだけでいい
すべてを捨てて 差し出して
世界を敵に回しても
君しかいらない
一生君と 一緒にいたい
君が 君だけが
僕の歌を好きでいてくれたら
僕を好きだと笑ってくれたら
変わらず隣にいてくれるなら
いつだって僕は
君に恋をして
君を 君だけを 愛そう
「引退のことを考えたのは、芸能界に入ったばかりの頃だった」
「え、そんな前に……?」
それってもう、2年前くらい……。
入ったばかりなのに、どうして?
「元々俺が芸能界に入ったのは不特定多数の女にキャーキャー言われるためでも、自分の声を認めてほしいって思ったからでもない」
「前にも言ったと思うけど……さっきのステージでも言った」
「あ……」
遥が芸能界に入った理由。
それは……。
「うん。胡桃を振り向かせたかったから」
「っ!!」
目を細めて、これでもかと優しく笑う遥に、胸がぎゅっと苦しくなる。
「やっと胡桃と付き合えて、両思いになれて。でもそのときに思ったんだ。せっかくまた一緒にいられるようになったのに、胡桃に寂しい思いさせてる。いっしょにいられる時間が、また少なくなってるって」
「はる、か……」
「文化祭のときもそうだし、今回のライブもそう」
「俺が上に行こうとするたびに、また一緒になれたこの距離が離れる。いくら気持ちはつながってても、いくら一緒に住んででも、会えない時間が大きすぎて、もう嫌なんだ」
─────なんて、苦しそうなんだろう。
遥の全身が、つらいと叫んでる。
「それは、中学のブランクもあって尚更。胡桃の顔を見られない、胡桃の声が聞けない、胡桃にふれられない時間がないのは、もう、つらすぎて」
「っ、でも……っ」
私だって嬉しい。
遥と一日一緒にいられるなんて。
朝から夜までずっと。
でも、せっかくここまで大きくなれたのに。
「俺は胡桃だけでいい」
「え……?」
「いくら叩かれようと、俺は、胡桃が胡桃だけが俺の声を、俺の歌を好きだって言ってくれたらそれでいい」
「歌ならどこでも歌える。俺は胡桃といっしょに、胡桃の隣で歌っていられたらそれでいい」
「っ!!」
「この世界中で、胡桃さえ俺の歌を好きだって言ってくれたら、俺はこれ以上に幸せなことなんてない。
自分の歌を捨てることよりも、自分の名声を捨てることよりも、胡桃といられる時間がないことがどんなことよりも苦しいし、つらいんだよ。俺は……」
─────芸能界を捨ててでも、全てを捨てても、ずっと胡桃といたいんだよ。
「っ!!」
瞬間。
『僕の世界が色づくのは』
ふたりが、最後に歌った曲が思い出された。
僕にとっての一番はいつだって君で
僕は 君がいてくれるだけでいい
すべてを捨てて 差し出して
世界を敵に回しても
君しかいらない
一生君と 一緒にいたい
君が 君だけが
僕の歌を好きでいてくれたら
僕を好きだと笑ってくれたら
変わらず隣にいてくれるなら
いつだって僕は
君に恋をして
君を 君だけを 愛そう