もう、キスだけじゃ足んない。


げっ、お母さん!?

なんで!?


「せとかさん……」

「ご、ごめん、遥……」


苦笑いの遥に謝りつつ、おそるおそる電話をとる。


「も、もしもし?」

「あっ、胡桃!?お母さんよー!」

「ハイハイ、どうしたの。今度は何?」

「遥ー!そこにいるんでしょー?」


こ、この声……。


「遥のお母さん!?」

「母さん!?」


な、なんで……。


「お父さんたちもいるぞー?」

「え、なんでお父さんまで!?」


「胡桃ー!遥ー!」

「桃華!?」

「杏まで……」


そしてなぜか、満面の笑みで入ってきたふたりに、電話の向こうでお母さんは言った。


「さっきのbondの生配信、お母さんたちも4人で見ててね、もうめちゃくちゃ感動しちゃって!今日は4人の婚約祝いだー!ってことで、今からそっち行くわね!」

「い、今からって……マンションまで来るの!?」

「そうよ!久しぶりにみんなで一緒にご飯食べましょ!」


うちのお母さんとお父さん。

そして遥たちのお母さんとお父さんが、遊びに来る!?

今から!?

「ご飯はあたしたちに任せてね!」


なんて。

これは拒否権、最初からないっぽい……。


「胡桃」「桃華」


「え、なに?」「どうしたの?」


急に神妙な面持ちになったふたり。

もしかして、一緒にご飯食べるの嫌だとか?


「いや、ご飯食べるのはぜんぜんいいんだけど、俺のそばから離れんなよ」

「桃華も。お茶以外飲んじゃだめだからね」

「え?」

「ほんとにどうしたの、ふたりとも?」


「せとかさん、絶対また酔っ払うって……」

「今度こそ間違えてお酒飲まないように気をつけなきゃ」


なんて、こそこそふたりが話している横で。


「桃華」

「うん?」

「杏とうまく話できたみたいで良かった」

「胡桃も。すっごいスッキリしてる」


幸せだねって、お互い目を真っ赤にして笑い合う。


「桃華!行こう!」

「うん!」

「胡桃。俺たちも」

「うんっ」

「あ、でもその前に……」

「えっ……んんっ、」


静かに、と人差し指を立てた遥に、そっと唇を塞がれた。
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