もう、キスだけじゃ足んない。
「胡桃は幸せ?」
座った状態で後ろから私を抱きしめたまま、そっと顔をのぞき込まれた。
「うん、幸せ。でも……」
「でも?」
「ちょっと複雑、かな……」
「複雑って?」
「だって遥、グループで活動してたときよりもファン増えたじゃん……」
1人の女の子のためにすべてを捨てたって、世の女の子たちをより一層虜にした。
いくら芸能界を引退したからって。
さすがに学校やマンションまで来る子はいないけれど、遥と杏の話題はいつになっても収まらない。
「俺は胡桃のものなのに?」
「そう、だけど……」
「なら、今日はダッシュで帰ろう」
「え?」
「昨日までバタバタしてて、やっと落ちついたし。胡桃のこと、今日から存分に愛してあげられる」
「っ、なっ!?」
「そんな不安になる余裕もないくらい、たっぷり甘やかしてあげるから。楽しみにしてて」
なんて、色気たっぷりに微笑まれて、私の心臓はドキドキ暴れ出す。
「最高に甘い夜にしてあげるから」