もう、キスだけじゃ足んない。
***


それから遥の言った通り、早足で家へと帰ってきた私たち。

な、なんかそういうことをするために、早く帰ってきたって思ったら、すっごいはずかしいし、改めて緊張しちゃうっていうか……。

結局ライブのあった日の夜も、お母さんたちが泊まっていって何もなかったし、それからも引退する件でバタバタしてて、今日まで来てしまって。

したのはあのときの……。

まだ1回だけ。


なんて、玄関で突っ立ったままぐるぐる考えてたら。


「おかえり」

「え?」


先に靴を脱いだ遥が、目尻をこれでもかと下げて微笑んでいて。

両手を広げて、こっちを見つめていた。


「俺がおかえりって言う機会は、今までほとんどなかったから。ずっと言いたいなって思ってた」

「っ!!」


「これからはいつでも言える。
家で胡桃のこと、待っててあげられる」


「はる、か……」


「おいで。ぎゅーしよ」


「うん……」


ゆっくり腕の中へと入り込めば、ぎゅうっと全身を包まれる。


何も言われていないのに、全身で好きって言われてるみたい。

遥とハグするだけで、心が、全身が、満たされていく。


「でもこれだけで満足しないで?」

「えっ……ひゃあっ!?」

「かわいい声……もっと聞かせて?」

「っ、ぅ……はる、か……っ!」

「うん?なに?」


まだ靴を履いたままだった私のローファーは、遥の手によって脱がされ、抱き上げられ。


「こ、このまま?」

「ん。このまま。
ベッド行こう」

「んんっ、」


そっと額に唇が落ちてきたあとで、すぐに唇も塞がれた。


「俺の首に手、回して」

「うん……」

「ん、いい子」


ドキンドキンドキン。

廊下を歩く遥の腕の中で、心臓が口から飛び出そうなほど速く動いている。

私、今から遥と……。


「あ、あの、はる、か……っ」

「うん?」

「えっと、私……っ」


2回目なのに。

あまりの緊張でどうにかなりそうな私に、遥はますます甘く微笑んで。


「大丈夫」

「えっ」

「この間以上に、とびきり優しくする。いっぱいいっぱい甘やかしてあげる。痛いことも苦しいことも絶対にしないから」

何も言っていないのに、私の心の声を聞いて、優しく笑いかけてくれる遥に胸がぎゅうっとなって。


「好き……」

「ん、俺も大好きだよ」


ぎゅうっと腕に力をこめて。

今度は改めて、自分から遥に抱きついた。
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