もう、キスだけじゃ足んない。
***


「ふっ……あ、」

「かわいい……めちゃくちゃかわいい」


薄暗い部屋の中で。

シーツの上で、足が、体が、何度も跳ねてしまう。


「好きだよ……キスしようか?」

「ん……っ、ふ、」


甘い言葉、壊れ物を扱うかのようにふれてくる、熱くて優しい指先。

あの夜よりも、もっともっと時間をかけて。

何度も押し寄せる甘い波に、涙が出てくる。

遥が好き……もう、それしか考えられない。


「今、何考えてる……?」


指が絡んでいた両手をそっと引かれて、制服のシャツがはだけたまま、遥の膝に乗せられた。


「はる、か……っ」

「うん?」


グッと腰に回った腕に、体が密着して、じんわりお腹の奥が熱くなる。

とんでもない色気を纏って、溶けそうなほどの熱を含んだ瞳に見つめられたら。


「なに、も……遥のこと、」

「ほんとに?」

「っ、うん……」


もう口が勝手に動いてしまう。

でも、なんで、急にそんなこと……。

残った理性が、私の頭にストップをかける。


「遥……?」

「……」


瞬間。

私の体をすべっていた指先が離れていく。


「え……」


心臓がドクンと嫌な音を立てる。

私、何か……変なこと言っちゃった?

変なこと、しちゃった?


「っ……」

「胡桃……っ」


耐えきれずに落ちた涙に、遥はそっと眉毛を下げた。

「ごめんな、不安にさせた」

「ん……っ」


そっと後頭部を抱き寄せられて、なだめるように、まぶたに、額に、こめかみに、何度も何度もキスが落ちてくる。


「その……こんなときに、なんだけど……聞こえなくて」

「え?」


「胡桃の心の声が、聞こえない」

「えっ!?」
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