もう、キスだけじゃ足んない。


「伊予くんも、こっちくる?」

「いや、俺は、いいよ……」


「遥は?」

「俺もちょっと休んでる」

「そっか」


「くるみちゃーん!どうしたのー?」

「ううん、なんでもないよー!」


あっちでもう一回お絵かきしよっか!

うん!

遠くにいるふたりに笑顔で手をふる胡桃。


小さい子と遊んでる姿とか、見たことなかったけど……。

優しいお母さんになりそうだな……。


もし俺たちに子供ができたらこういう感じなのかなって、またうれしくなった。


「……」


「……おい、なに顔真っ赤にしてんだよ、思春期」


「遥だって、頭ん中やらしいことしかないくせに。つか赤いのはおまえもだろ」


「……ほっとけ」


だって、あんな思いっきり笑ってる胡桃、貴重すぎて。

笑ってるとこは見るけど、ふだんは落ちついて大人っぽい印象のせいか、あんなにテンション高めなのはほとんどない。

ふだんいっしょにいる俺でもなかなか見れないめっっっちゃ、レアなやつ。


だからこそ、だれにも見せたくなかったのに。

あんなかわいい笑顔見たら、男なんてイチコロ。

だれだって好きになる。


隣のヤツが例にもよらず、そうなんだけど。


あーあ……ほんと、伊予には見せたくなかったな。


かわいいのはわかるけど、顔真っ赤にすんなよ。


「伊予くん、どうしたの。
顔真っ赤だけど。体調わるい?」

「いや、ちが……っ」


ほら、見ろ。

胡桃は天使のように優しいから、体調わるいやつとか困ってるやつがいたらほっとけない。

男とはほとんど話さないのに、こういうときだけは遠慮なしに話すから、すぐに男は勘違いする。


「あのさ、胡桃、俺……」

「うん?」


「くるみお姉ちゃーん!」

「やっと見つけたよー!」


「やった!見つかった!?」

「く、胡桃……」


ドンマイ、伊予。

昔は俺もそうだったから。


桃華と比べられてきたってこともあって、男にそう想われてるって本人は気づかない。

まあ、学校でもいつでも、胡桃と離れる前は、俺が執拗(しつよう)にそばにいて、周りの男に牽制かけてたから、尚更かもしんないけど。
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