もう、キスだけじゃ足んない。
「伊予くんには、ふたりから。
遥には、私から」
そう言って俺の前に膝をついた胡桃は、両手で。
『さっき幸せおすそ分けって言ってあげたけど、お仕事がんばってる遥には、もっともっと幸せになってほしいから』
大切に、宝物みたいに大事そうに差し出してきて。
「遥に、プレゼント」
『いつもお疲れさま』
太陽の下、そよそよと風に揺れる美しい花みたいに。
優しく、それはもう優しく、笑った。
っ……もう、無理……っ。
「ん?っ、きゃあっ!?
見てるから!!まどかちゃんたち見てるから!!」
『はずかしいって!なにしてるの!?』
「おい遥!?俺いるんだけど!?」
隣でギャーギャー言ってるやつはフルシカトして、離れそうになる体をぎゅっと抱きしめる。
一瞬、泣くかと思った。
優しい笑顔、澄んだ瞳、あたたかい心の声。
そのぜんぶが胸に刺さって、胸が苦しくなった。
好き。好きだよ。
寂しい思いさせてごめん。
ふたりの時間、なかなかとれなくてごめん。
いつも家で待っててくれて、おかえりって言ってくれてありがとう。
俺はもう十分幸せもらってるよ。
胡桃から、たくさんたくさん。
だから。
「まだまだ俺の幸せにする、はこれからだよ」
「え?」
耳に唇を寄せればぴくりと跳ねる体。
それさえも愛おしくて、なだめるように背中をなでれば、胡桃も俺にそっと腕をまわして。
「もっともっと。胡桃が俺の愛情でとけそうになるくらいまで愛してあげるから、覚悟してて」
俺は、くれる倍以上の幸せを、胡桃にあげたい。
『っ……もう、なりかけてるよ、ばか遥……』