もう、キスだけじゃ足んない。



「……紅さんと連絡とれないかって、俺がせとかさんに頼んだんだ」


「おばあちゃんに?」


「うん。ほら、胡桃小さいとき、いつも紅さんのぶどう、楽しみだって言ってただろ?」


たしかに小さいころは、毎年のように早く食べたいっていつも言ってた気がするけど……。


「え、まさか遥……」


そんな小さいときのこと、覚えててくれたの……?


握った手に力がこもって。

目を見開いた私に、遥は照れくさそうに笑って言った。


「その……付き合ってからちょっと経つけど、まだデートしたことなかっただろ?けど、たくさん人がいる外じゃ無理だから、こういうのなら、喜んでくれるかなって」


「遥……」


「今の時期、ぶどう狩りならどこでもやってる。けど、紅さんのぶどうが大好きな胡桃に、どうしても食べさせてあげたくて」


「けどあんまりデートっぽくないし、彼女の親に頼んだって言うのが男としてかっこつかないから、黙ってたんだけど……」


なんか騙すみたいになって、黙っててごめんな。


「そん、な……っ」


じゃあもしかして、昨日危なかったとか言ってたのは、そういうことだったの?

前もってお母さんに連絡して、おばあちゃんにも……。

だからおばあちゃん、遥にあんな微笑ましいって感じで笑って……。


「っ……」


グッと喉の奥からなにかが込み上げてきそうになって、目が熱くなる。

胸が、張り裂けそうなくらい、苦しい。
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