もう、キスだけじゃ足んない。


「それと、これ……」

「え……?」


ぎゅっと胸の前で手を握りしめていたら、遥に手をとられて、そっと手に持たされた、小さな紙袋。

中には白地に黒の英字が入った長方形の箱。


「あけてみて」


ゆっくりゆっくり箱をあけて。

宝石みたいなキャップに、これまたリボンがついた、透明のガラスの瓶。

中には薄いオレンジの色の液体。


「これって……」


香水……?


「正解。こんなとこであげるのもどうかと思ったんだけど、ほんと、ずっと渡したくて」


あれ……しかも、このお店……。


「気づいた?
中学のとき、俺に香水くれただろ?
同じお店で作ってきた」


って、ことは……。


「前に胡桃が俺に作ってくれたのと同じ。
胡桃のこと考えて、胡桃のためだけにつくった、胡桃専用の香水」


胡桃のことイメージして手作りしたから。

この世で1つしかない唯一の香りだよ。


「っ……」


「胡桃?」


瞬く間に視界が歪んでいく。

胸の内に溜まったものが。

我慢していたものが。


もう、とまらない。


「な、に、それ……っ」

「え?」


絞り出した声は震えて、掠れていた。


「遥こそ……」


私のこと……っ。


「どれだけ好きにならせるの……っ、」
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