もう、キスだけじゃ足んない。
【遥side】
「胡桃……?」
震えたような声のあと、そのままうしろからぎゅっと抱きついてきた胡桃。
『っ……デートっぽくないって、十分デートだよ……私のために、時間ないのに、疲れてるのに、いろいろ考えて準備してくれて』
こんなの、涙出てくる……っ。
「っ……せとかさん、」
「どうしたの?」
揺さぶられるほどの震える声に、今にも抱きしめたい衝動に駆られるのを必死にこらえて。
少し早口になりながらも口を開く。
「すみません。
本当、いろいろありがとうございました」
「いいのよ、ぜんぜん。
ふたりが幸せなら、あたしたち親がなにも言うことはないし」
「はい……本当は直接お礼も言いたかったんですけど」
「ふふふ、いいのよ?お仕事忙しいだろうし、遥くんのことは、自分の息子のように思ってるから」
「はい……」
「同居のことも、桃華から聞いてる。
鈍感な娘だけど、ふたりきり、楽しんでね」
「ありがとうございます……」
きっと今の俺の気持ちを汲み取ってくれたんだと思う。
胡桃もそうだけど、せとかさんも、まじで最強。
「胡桃によろしくね。
またいつでも遊びにきてね」
「はい」
そしてゆっくり電話を切る。
「胡桃」
「……」
「くーるーみー」
「……」
「顔あげてくんないと、胡桃のこと抱きしめられない」
「っ……」
『はる、か……』
「ん。やっと顔、見せてくれた」