もう、キスだけじゃ足んない。


「ならいいけど……」


次胡桃に抱きつこうもんなら、わかってるわよね?

そう、にっこり八朔に笑いかける天草。


「ひっ!」


その顔は……まあ、うん。

男の俺からしてもおっかない。


「天草」

「ん?」


「文化祭の日、胡桃のこと守ってくれてありがとな」

「いいよ、ぜんぜん!
あたしも男装できて楽しかったし!」


「聞いた。男装好きなんだって?」

「うん、そうなんだよねー……ねえ、」


「ん?」

「胡桃のドレス姿かわいかった?
やっぱいろいろやっちゃったの?ぐふっ、」


「……なに聞いてんの、天草」


グッと顔を近づけられたと思ったら、いたずらっ子みたいな顔して、小さい声で聞かれた。


「いやー、胡桃に聞いてもはずかしがって教えてくんないしさ!ふたりの恋模様、めちゃくちゃ聞きたいんだよね」


「なんでそんな聞きたいの?」


「え、コミケで出す本のネタにするからだけど?」

「……」


まじか……。


クイッ。


ん?


唖然としていたら、立っていた俺の制服がうしろに引っ張られた。


『……』


え、なにそのかわいい顔。

視線は横を向いたまま。

俺のほうは見てないんだけど、ツンって口が尖ってて、ほんのり顔が赤い。


「あすみー!ちょっといいー?」

「なにー?
ごめん、ふたりとも、ちょっと行ってくるね」


「し、不知火くん!
いっしょに写真いいかな……!」


「もちろんだよ」


「ねえ、みはや。
かわいい子いっしょに声かけに行かない?」

「知らん」


天草が席を離れたと同時に、胡桃の周りに集まっていた甘利たちもみんな離れていく。


「……」

「どうした?」


秘密な話でもするように、そっと胡桃に話しかける。


『友達、なのに……こんなこと思うなんて……』

「こんなことって?」
< 75 / 323 >

この作品をシェア

pagetop