もう、キスだけじゃ足んない。
胡桃が、遥の心の声が聞こえるようになって、ふたりを避け始めたあの日から。
毎日のように、胡桃のことを話していた遥はもちろんのこと、
実は杏も遥に負けないくらい、胡桃のこと気にしてたんだ。
「杏が、私のことを?」
「うん」
『ねえ、桃華。
俺たち気づかないうちになにかしちゃったのかな』
『胡桃、今日は目も合わせてくんなかった。
なんで、胡桃、どうしたの……』
『胡桃とはなれてから遥、めちゃくちゃ荒れてたんだよ。目も当てられないほどに』
『口の悪さとか、レッスンサボったりとか、マネージャーさんも手を焼いてたよ。
あ、でも女遊びだけは一切してなかったから、安心して』
「杏はああ言ってたけどさ、遥ほどじゃないにしろ、杏もなかなかでね?」
「うん……」
あのときのつらい気持ちを思い出してるんだと思う。
ぎゅっと唇を噛みしめた胡桃の手を握って、横に並んで座る。
「そのときにね、思ったんだ。
胡桃が離れてこんなに荒れるってことは、杏も遥といっしょで、胡桃を好きなのかなって」
「うん……」