英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
お世話にあがってください
戦争が終わったのが一年前。
国境付近で力の強い魔物が大群で出たため、騎士団が大軍を引いて出陣した。
被害が尽大ながらも魔物を討伐したが、隣国はその隙を狙い戦争を仕掛けて来た。
それを、疲弊しながらも、騎士団は果敢に立ち向かい、それから5年という月日で戦争を終わらせた。
そこには、英雄となった騎士様がおり、彼はその功績を認められて現在は騎士団の頂点に立っている。
そして、戦場が人里離れた国境付近のために、王都は平和に暮らせていた。
そんな王都にも住んでない私は、ダリア・ルヴェル伯爵令嬢。
伯爵令嬢と言っても、没落寸前の伯爵家だ。
王都から少し離れている小さな村の伯爵家だけど、王都のような華やかさがない村だった。
そんな村の伯爵家が盛り返すことはなく、質素倹約な生活を送っていた。
修繕するお金もない屋敷に、使用人のいない伯爵家。
母はとうに亡くなり、父は王都に勤めていた。
父は王城の書庫に勤務していたが、管理職でもない。
その給料だけでは屋敷なども含めても貴族の暮らしは維持できない。
平民なら、普通の暮らしが余裕でできただろうけど。
私もいずれは、結婚するべきなのだろうけど……。
こんな貧乏伯爵令嬢に誰が結婚を申し込むのか。
それに、私の行き先はもう決まっている。
父が借金をしていたマレット伯爵家へと妾にあがることが決まっていた。
それは、すでに一人になってしまったからだ。
父は、なんとか私が妾にあがらないように、必死で働き毎月の借金を返済していた。
その父は先月に馬車の事故に合い、亡くなってしまった。
人に頼まれた本の一部を写本にしており、それを家に忘れたために、雨の中自宅に取りに帰ろうとしたが、運悪く馬車が横転してしまったのだ。
そのまま、父は帰らぬ人になってしまったのだ。父が亡くなり、一人では借金を返せない。
マレット伯爵家もそれがわかっていたのだろう。だから、この身を差し出すしかないのだ。
元々、借金も亡くなった母の高額な治療費のためと、借金の担保にしていた領地のためだ。
領地を取り戻すことも出来ず、戦で一時期税金が上がったのもあるのだ。
貴族だけに課せられた一時的な税金だったけれど、お金のない我が家には、重くのしかかるものだった。
そんな貴族の邸ともいえない、ちょっとした平民よりも少しだけ大きいぐらいの屋敷にいつも通りに一人でいた。
今日は、王都の治療院に通っている仕事が休みだったから、本を読みながらゆっくりと過ごしていた。
そんなある日、突然の使者がやって来た。
やって来た使者は、英雄騎士と呼ばれるノクサス・リヴァディオ様の使者だった。
ある日突然やって来た使者と、我が家の居間のソファーに向かい合わせに座っていた。
ソファーの間のテーブルには、使用人もいないため、私が淹れたお茶が並んでいる。
使者の方は、フェル・ノインズと名乗る青年だった。
「お世話……ですか?」
「ぜひ、住み込みでお願いしたいのです。生活の保証はいたします。決して不自由はさせません。どうかお願いします。どうか……」
「でも……うちは、もう爵位を返上することになるのです」
伯爵だった父と母が亡くなり、お金のない我が家は、爵位返上となる予定だ。
そして、このルヴェル伯爵家はいまや私一人だった。
私、ダリア・ルヴェルは、このまま父が借金をしていたマレット伯爵家へ妾として召される予定だった。
それなのに、いきなりフェルという使者がやって来て、私に告げたのは、英雄騎士と呼ばれるノクサス・リヴァディオ様のお世話にあがって欲しいとの要請だった。
英雄騎士と呼ばれるノクサス様は、戦で武功を上げた方で、この田舎でさえ有名な方だった。
どうして私にお世話係の話がくるのかわからない。
令嬢の行儀見習いにしたって、面識のないノクサス様から、お話がくるのは違和感がある。
父と知り合いだったとも聞いたこともない。
去年の18歳の時に、戦の前線ではないが、私は回復魔法が使えるから回復要員として、傷病者を受け入れていたある村に行ったことはあるけれど、前線にいたノクサス様と知り合いになるわけもない。
困惑したまま、目の前のフェルという使者を見た。
「……申し訳ありませんがダリア様のことは、少し調べました。回復魔法が使えると……」
「もしかして、ノクサス様はお怪我を? それなら、もっと能力の高い白魔法を使える方のほうが……」
「ダリア様がいいのです。……いきなりのことで驚きはあるでしょうが、悪いようにはしません。どうか、お願いいたします」
切羽詰まったようにフェルという使者の方はお願いしてくる。
でも、行くならマレット伯爵様にお伝えしないといけない。
妾としてあがるのを延期していただけるのかと……。
借金を踏み倒すわけにはいかない。
「……お返事は明日でもかまいませんか? 少し考えたいのです」
「勿論です。何かお困りなら、なんでもおっしゃってください」
「……なにもありません」
そう俯きがちに言うと、フェルという使者の方は少し冷めてしまったお茶を飲んだ。
「お茶をご馳走様です。明日にまた参ります」
フェルという使者は丁寧に挨拶をして、屋敷をあとにした。
そのフェルという使者を私は、玄関まで見送った。
急な話でどうしようかと悩む。
そのまま、庭の菜園に野菜を収穫に行くが、いつものことなのに先ほどの話ばかり頭にある。
もしかしたら、マレット伯爵様の妾にあがらなくてもいいのかもしれない。
20歳代後半のマレット伯爵様は、強引な方で、ちょっと苦手だった。
お世話係のお給金が良ければ、借金返済の当てになるかもしれない。
生活は保証してくれると言っていたから、お給金はきっとほとんど借金返済に回せるはず。
妾にあがるよりも、お給金のいい仕事をして、借金を返済したほうがいいはずだ。
そんなことを考えながら、夕日は落ちていっていた。
国境付近で力の強い魔物が大群で出たため、騎士団が大軍を引いて出陣した。
被害が尽大ながらも魔物を討伐したが、隣国はその隙を狙い戦争を仕掛けて来た。
それを、疲弊しながらも、騎士団は果敢に立ち向かい、それから5年という月日で戦争を終わらせた。
そこには、英雄となった騎士様がおり、彼はその功績を認められて現在は騎士団の頂点に立っている。
そして、戦場が人里離れた国境付近のために、王都は平和に暮らせていた。
そんな王都にも住んでない私は、ダリア・ルヴェル伯爵令嬢。
伯爵令嬢と言っても、没落寸前の伯爵家だ。
王都から少し離れている小さな村の伯爵家だけど、王都のような華やかさがない村だった。
そんな村の伯爵家が盛り返すことはなく、質素倹約な生活を送っていた。
修繕するお金もない屋敷に、使用人のいない伯爵家。
母はとうに亡くなり、父は王都に勤めていた。
父は王城の書庫に勤務していたが、管理職でもない。
その給料だけでは屋敷なども含めても貴族の暮らしは維持できない。
平民なら、普通の暮らしが余裕でできただろうけど。
私もいずれは、結婚するべきなのだろうけど……。
こんな貧乏伯爵令嬢に誰が結婚を申し込むのか。
それに、私の行き先はもう決まっている。
父が借金をしていたマレット伯爵家へと妾にあがることが決まっていた。
それは、すでに一人になってしまったからだ。
父は、なんとか私が妾にあがらないように、必死で働き毎月の借金を返済していた。
その父は先月に馬車の事故に合い、亡くなってしまった。
人に頼まれた本の一部を写本にしており、それを家に忘れたために、雨の中自宅に取りに帰ろうとしたが、運悪く馬車が横転してしまったのだ。
そのまま、父は帰らぬ人になってしまったのだ。父が亡くなり、一人では借金を返せない。
マレット伯爵家もそれがわかっていたのだろう。だから、この身を差し出すしかないのだ。
元々、借金も亡くなった母の高額な治療費のためと、借金の担保にしていた領地のためだ。
領地を取り戻すことも出来ず、戦で一時期税金が上がったのもあるのだ。
貴族だけに課せられた一時的な税金だったけれど、お金のない我が家には、重くのしかかるものだった。
そんな貴族の邸ともいえない、ちょっとした平民よりも少しだけ大きいぐらいの屋敷にいつも通りに一人でいた。
今日は、王都の治療院に通っている仕事が休みだったから、本を読みながらゆっくりと過ごしていた。
そんなある日、突然の使者がやって来た。
やって来た使者は、英雄騎士と呼ばれるノクサス・リヴァディオ様の使者だった。
ある日突然やって来た使者と、我が家の居間のソファーに向かい合わせに座っていた。
ソファーの間のテーブルには、使用人もいないため、私が淹れたお茶が並んでいる。
使者の方は、フェル・ノインズと名乗る青年だった。
「お世話……ですか?」
「ぜひ、住み込みでお願いしたいのです。生活の保証はいたします。決して不自由はさせません。どうかお願いします。どうか……」
「でも……うちは、もう爵位を返上することになるのです」
伯爵だった父と母が亡くなり、お金のない我が家は、爵位返上となる予定だ。
そして、このルヴェル伯爵家はいまや私一人だった。
私、ダリア・ルヴェルは、このまま父が借金をしていたマレット伯爵家へ妾として召される予定だった。
それなのに、いきなりフェルという使者がやって来て、私に告げたのは、英雄騎士と呼ばれるノクサス・リヴァディオ様のお世話にあがって欲しいとの要請だった。
英雄騎士と呼ばれるノクサス様は、戦で武功を上げた方で、この田舎でさえ有名な方だった。
どうして私にお世話係の話がくるのかわからない。
令嬢の行儀見習いにしたって、面識のないノクサス様から、お話がくるのは違和感がある。
父と知り合いだったとも聞いたこともない。
去年の18歳の時に、戦の前線ではないが、私は回復魔法が使えるから回復要員として、傷病者を受け入れていたある村に行ったことはあるけれど、前線にいたノクサス様と知り合いになるわけもない。
困惑したまま、目の前のフェルという使者を見た。
「……申し訳ありませんがダリア様のことは、少し調べました。回復魔法が使えると……」
「もしかして、ノクサス様はお怪我を? それなら、もっと能力の高い白魔法を使える方のほうが……」
「ダリア様がいいのです。……いきなりのことで驚きはあるでしょうが、悪いようにはしません。どうか、お願いいたします」
切羽詰まったようにフェルという使者の方はお願いしてくる。
でも、行くならマレット伯爵様にお伝えしないといけない。
妾としてあがるのを延期していただけるのかと……。
借金を踏み倒すわけにはいかない。
「……お返事は明日でもかまいませんか? 少し考えたいのです」
「勿論です。何かお困りなら、なんでもおっしゃってください」
「……なにもありません」
そう俯きがちに言うと、フェルという使者の方は少し冷めてしまったお茶を飲んだ。
「お茶をご馳走様です。明日にまた参ります」
フェルという使者は丁寧に挨拶をして、屋敷をあとにした。
そのフェルという使者を私は、玄関まで見送った。
急な話でどうしようかと悩む。
そのまま、庭の菜園に野菜を収穫に行くが、いつものことなのに先ほどの話ばかり頭にある。
もしかしたら、マレット伯爵様の妾にあがらなくてもいいのかもしれない。
20歳代後半のマレット伯爵様は、強引な方で、ちょっと苦手だった。
お世話係のお給金が良ければ、借金返済の当てになるかもしれない。
生活は保証してくれると言っていたから、お給金はきっとほとんど借金返済に回せるはず。
妾にあがるよりも、お給金のいい仕事をして、借金を返済したほうがいいはずだ。
そんなことを考えながら、夕日は落ちていっていた。
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