英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
気になっている気もしてます
深い森を出た頃には、天気が悪くなっていた。
今にも雨が降りそうだ。
でも雨なら視界が悪くなるし、騎士団に忍びやすくなるかもしれない。
馬の上で私の足の付け根に座り込んでいるミストは、猫だからか寒いのが苦手のようで、くしゅんとくしゃみを出す。
「ミスト。寒いの?」
「寒いですね」
「少し私の邸で休みましょうか? 夜まではまだ時間があるし……」
「そうしてください。大体、経歴を処分するよりも、あの男たちを始末するほうが、早いのでは? ダリア様が頼めば、僕が始末しますよ」
「自然に亡くなるのと、私たちが止めをさすのは違うわ。探すのも大変だし……」
「ダリア様は人が良すぎますよ」
ミストはそう言うけど、私に暗殺者みたいなことは出来ない。
ましてや、ミストにそんなことをさせられない。
そして、私の邸に帰る前に、村でパンやミストの好きな魚の干物を買い邸に帰った。
私の屋敷に帰ると、数日居なかったぐらいなのに懐かしかった。
空気も淀んでいるようにも感じた。
ノクサス様の邸が意外と居心地が良かったと、今さらながらに気付いた。
「ノクサス様は大丈夫かしら……」
「どなたです?」
「今、仕事でいる邸の方よ。とっても良い方なの。ちょっと変わっているけど……優しいのよ」
ミストは、「ふーん」と言いながら干物をかじっている。
不思議とノクサス様が気になる。
でも、きっと今頃は騎士団の白魔法使いが回復魔法をかけている頃だろう。
少しだけため息が出た。
そして、暖炉に火をつけて、私は、厨房でスープを作り始めていた。
ミストも食べられるように、味を薄めにして煮込んでいると外は雨が降り始めていた。
スープを食べたら、すぐにでも王都に戻る気だったのに……。
そのために、雨用のマントがいるかと思い、スープを煮込んでいる間に、雨用のマントを用意しに行くと、玄関外から馬の鳴き声がした。
「村の人かしらね……誰か怪我人でも出たのかしら?」
村人が怪我をした時は、よく回復魔法をかけてあげていた。
私はこの村を伯爵家として支えられなかったから、せめてこれくらいは……と思っていたのだ。
そして、玄関扉を開けようとすると、勢いよく扉が開いた。
驚くと、必死な形相のノクサス様が飛び込んで来た。
「ダリア!! どうしたんだ!?」
「な、何がでしょうか?」
「何が?……じゃない!! 急にいなくなって!! どれだけ驚いたかと!!」
「ノクサス様が飛び込んで来たほうのことが驚きますが……」
「心配したんだ……! また、黙っていなくなってしまったかと……!」
ノクサス様は扉を勢いよく開け、目の前に私がいてハッとしたかと思うと、心配するように抱きしめてきた。
私がいなくなって、まだ一日も経ってないのに……私を探していたのだろうとわかる。
抱きしめられると、胸の鼓動が速く聞こえた。
私を心配する人なんて、もう誰もいないと思ったけれど違った。
たった一人になってしまったかと思ったけれど、違ったのだ。
「ノクサス様……」
その腕に安堵するように、瞼がそっと閉じた。
「ダリア様から離れろ!!」
ミストは、ノクサス様が不審者と思ったのか、シャーッと爪を立てて飛び掛かって来た。
「ミスト! やめて! この方はいいのよ!」
ミストからノクサス様を庇うように、前に出るとすかさずにノクサス様が私を庇うように、引き寄せて左腕でミストの爪を受けた。
「ノクサス様!? ミスト! やめなさい!」
「ダリア様のお知り合いですか? この穢れた不審者はいきなり抱きついてきましたよ」
「そ、そうよ。ちょっと変わっている方だけど、ノクサス様を傷つけるのは許さないわよ」
ミストは、下からジィーとノクサス様を刺すように見ている。
「ダリア……猫が話したぞ」
「気のせいでは?」
「たった今しっかり会話していたじゃないか! しかも、俺を穢れた不審者呼ばわりしたぞ!」
「それは呪いのせいで『穢れた』と思ったのですよ。ミストは、不思議な猫なのですよ」
「やっぱり話していたじゃないか」
ミストのことが普通の猫じゃないといきなりバレた。
ノクサス様なら、珍しい猫だと売ったりしないだろうけど……。
その間にミストは私とノクサス様の間に飛び込んできて、そのまま抱っこをする形になってしまった。
「ミストはただの猫だから気にしないでください。それよりもノクサス様はどうされたのですか? お仕事は?」
「何がただの猫だ。不思議な猫だと言ったばかりだろう……いや、それよりもダリアだ。治療院に食事に誘いに行ったら、休みを取っているし、邸にもいないし……」
「仕事中は、ほおっておいてくださいよ」
どこまで私を気にしているのか。
「今朝、お暇をくださいとお願いしたじゃないですか」
「それなら、俺も一緒に行くと言ったはずだが」
真剣にこちらを向くノクサス様は迫力があった。
いつもの優しい雰囲気じゃない。
「もしかして、怒っていますか?」
「急にいなくなれば心配する」
青ざめているようにも見える。
「心配かけてすみません……でも用事が終われば、ノクサス様のお邸に帰るつもりでした」
「本当か? 本当に俺のところに帰るつもりだったか?」
「お仕事ですから……」
「ダリア……」
優しく名前を呼び、ノクサス様の心配そうに私を慈しむ顔は、本当に顔面不良に見えてきた。
「……ノクサス様。魔法は? 魔法薬でお顔を拭きました? ランドン公爵令嬢様が白魔法使いを遣わす予定だったのでは? 騎士団の白魔法使いにも回復魔法をかけてもらっていますよね?」
「ダリアを探していたから、なにもしてないぞ。アリス嬢は、アシュトン殿下が引き取ってくれた。もう俺の邸にはいない……」
「えぇっ!? だから、顔色が悪いのですよ!」
「だから、穢れていると……この男は穢れが広がっている。痛くないのか?」
ミストは、変人でも見るように睨んでいる。
「痛みは我慢すればいいだけだ。ダリアを探すことのほうが重要だ!」
そこは、力いっぱい言うところじゃありません!!
「ノクサス様のほうが問題です! 私は、失踪したわけじゃないんですよ! とにかく、すぐに魔法をかけましょう!!」
そのまま、急いでノクサス様を座らせ、魔法をかけた。
無理をしていたのか、ミストの言う通り呪いが何故か広がっていた。
しかも私を探すのに疲れたのか隣でもたれるように眠ってしまった。
「ミスト……どうしましょうか?」
「ほっとけばいいのでは?」
ミストは、どうでもよさそうに暖炉の前で寝てしまっていた。
今にも雨が降りそうだ。
でも雨なら視界が悪くなるし、騎士団に忍びやすくなるかもしれない。
馬の上で私の足の付け根に座り込んでいるミストは、猫だからか寒いのが苦手のようで、くしゅんとくしゃみを出す。
「ミスト。寒いの?」
「寒いですね」
「少し私の邸で休みましょうか? 夜まではまだ時間があるし……」
「そうしてください。大体、経歴を処分するよりも、あの男たちを始末するほうが、早いのでは? ダリア様が頼めば、僕が始末しますよ」
「自然に亡くなるのと、私たちが止めをさすのは違うわ。探すのも大変だし……」
「ダリア様は人が良すぎますよ」
ミストはそう言うけど、私に暗殺者みたいなことは出来ない。
ましてや、ミストにそんなことをさせられない。
そして、私の邸に帰る前に、村でパンやミストの好きな魚の干物を買い邸に帰った。
私の屋敷に帰ると、数日居なかったぐらいなのに懐かしかった。
空気も淀んでいるようにも感じた。
ノクサス様の邸が意外と居心地が良かったと、今さらながらに気付いた。
「ノクサス様は大丈夫かしら……」
「どなたです?」
「今、仕事でいる邸の方よ。とっても良い方なの。ちょっと変わっているけど……優しいのよ」
ミストは、「ふーん」と言いながら干物をかじっている。
不思議とノクサス様が気になる。
でも、きっと今頃は騎士団の白魔法使いが回復魔法をかけている頃だろう。
少しだけため息が出た。
そして、暖炉に火をつけて、私は、厨房でスープを作り始めていた。
ミストも食べられるように、味を薄めにして煮込んでいると外は雨が降り始めていた。
スープを食べたら、すぐにでも王都に戻る気だったのに……。
そのために、雨用のマントがいるかと思い、スープを煮込んでいる間に、雨用のマントを用意しに行くと、玄関外から馬の鳴き声がした。
「村の人かしらね……誰か怪我人でも出たのかしら?」
村人が怪我をした時は、よく回復魔法をかけてあげていた。
私はこの村を伯爵家として支えられなかったから、せめてこれくらいは……と思っていたのだ。
そして、玄関扉を開けようとすると、勢いよく扉が開いた。
驚くと、必死な形相のノクサス様が飛び込んで来た。
「ダリア!! どうしたんだ!?」
「な、何がでしょうか?」
「何が?……じゃない!! 急にいなくなって!! どれだけ驚いたかと!!」
「ノクサス様が飛び込んで来たほうのことが驚きますが……」
「心配したんだ……! また、黙っていなくなってしまったかと……!」
ノクサス様は扉を勢いよく開け、目の前に私がいてハッとしたかと思うと、心配するように抱きしめてきた。
私がいなくなって、まだ一日も経ってないのに……私を探していたのだろうとわかる。
抱きしめられると、胸の鼓動が速く聞こえた。
私を心配する人なんて、もう誰もいないと思ったけれど違った。
たった一人になってしまったかと思ったけれど、違ったのだ。
「ノクサス様……」
その腕に安堵するように、瞼がそっと閉じた。
「ダリア様から離れろ!!」
ミストは、ノクサス様が不審者と思ったのか、シャーッと爪を立てて飛び掛かって来た。
「ミスト! やめて! この方はいいのよ!」
ミストからノクサス様を庇うように、前に出るとすかさずにノクサス様が私を庇うように、引き寄せて左腕でミストの爪を受けた。
「ノクサス様!? ミスト! やめなさい!」
「ダリア様のお知り合いですか? この穢れた不審者はいきなり抱きついてきましたよ」
「そ、そうよ。ちょっと変わっている方だけど、ノクサス様を傷つけるのは許さないわよ」
ミストは、下からジィーとノクサス様を刺すように見ている。
「ダリア……猫が話したぞ」
「気のせいでは?」
「たった今しっかり会話していたじゃないか! しかも、俺を穢れた不審者呼ばわりしたぞ!」
「それは呪いのせいで『穢れた』と思ったのですよ。ミストは、不思議な猫なのですよ」
「やっぱり話していたじゃないか」
ミストのことが普通の猫じゃないといきなりバレた。
ノクサス様なら、珍しい猫だと売ったりしないだろうけど……。
その間にミストは私とノクサス様の間に飛び込んできて、そのまま抱っこをする形になってしまった。
「ミストはただの猫だから気にしないでください。それよりもノクサス様はどうされたのですか? お仕事は?」
「何がただの猫だ。不思議な猫だと言ったばかりだろう……いや、それよりもダリアだ。治療院に食事に誘いに行ったら、休みを取っているし、邸にもいないし……」
「仕事中は、ほおっておいてくださいよ」
どこまで私を気にしているのか。
「今朝、お暇をくださいとお願いしたじゃないですか」
「それなら、俺も一緒に行くと言ったはずだが」
真剣にこちらを向くノクサス様は迫力があった。
いつもの優しい雰囲気じゃない。
「もしかして、怒っていますか?」
「急にいなくなれば心配する」
青ざめているようにも見える。
「心配かけてすみません……でも用事が終われば、ノクサス様のお邸に帰るつもりでした」
「本当か? 本当に俺のところに帰るつもりだったか?」
「お仕事ですから……」
「ダリア……」
優しく名前を呼び、ノクサス様の心配そうに私を慈しむ顔は、本当に顔面不良に見えてきた。
「……ノクサス様。魔法は? 魔法薬でお顔を拭きました? ランドン公爵令嬢様が白魔法使いを遣わす予定だったのでは? 騎士団の白魔法使いにも回復魔法をかけてもらっていますよね?」
「ダリアを探していたから、なにもしてないぞ。アリス嬢は、アシュトン殿下が引き取ってくれた。もう俺の邸にはいない……」
「えぇっ!? だから、顔色が悪いのですよ!」
「だから、穢れていると……この男は穢れが広がっている。痛くないのか?」
ミストは、変人でも見るように睨んでいる。
「痛みは我慢すればいいだけだ。ダリアを探すことのほうが重要だ!」
そこは、力いっぱい言うところじゃありません!!
「ノクサス様のほうが問題です! 私は、失踪したわけじゃないんですよ! とにかく、すぐに魔法をかけましょう!!」
そのまま、急いでノクサス様を座らせ、魔法をかけた。
無理をしていたのか、ミストの言う通り呪いが何故か広がっていた。
しかも私を探すのに疲れたのか隣でもたれるように眠ってしまった。
「ミスト……どうしましょうか?」
「ほっとけばいいのでは?」
ミストは、どうでもよさそうに暖炉の前で寝てしまっていた。