英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
英雄騎士様がやって来た
翌日。
この村にあるマレット伯爵様の邸に行こうと着替えを済ませると、朝からマレット伯爵様がやって来た。
「ダリア、暮らしはどうだ? そろそろ家に来ないか?」
やって来るなりマレット伯爵様はお酒臭い。
朝から飲んで来たのか、ご機嫌な感じでやって来た。
王都の夜会からこの村に帰るのに、そのまま私のところに来たのだろう。
そんなマレット伯爵様に、話を始めた。
「あの……妾にあがるのを延期してもらえませんか?」
「今さら金なんか返せないだろう?」
「すぐには無理ですが、仕事が入りそうなのです。以前よりもきっとお返しできるかと……」
「無理だろう。ダリアの収入だけで返せるとは思えないぞ」
うぅ、呆れ顔で、そうあっさり言われるとは……。
確かに私の働いている収入は、魔法治療院での回復だ。
かといって、王都に毎日通っても私だけの収入で借金の返済は無理だった。
「それに、名前で呼べと言っていたはずだが? スタンリーと……」
「は、離れてください! 妾にあがるまでは、なにもしない約束です!」
マレット伯爵様は、私に近づき腰に手を回す
まだ手は出さない約束なのに、お酒臭いせいか約束を忘れたようにしてくる。
一生懸命に押しやるが、離れてくれない。
背筋がゾッとする。必死で唇をかみしめた。
嫌だ!!
そう思った瞬間に、マレット伯爵様の感触がなくなった。
「ぐはぁーー!?」
そして、変なうめき声がした。
どうやら、首根っこを引っ張られたようだ。
「ダリア!! 大丈夫か!?」
知らない人が、私からマレット伯爵様を引きはがしてくれていた。
焦ったように私を心配している。
……でも、見覚えはない。
何故か顔の右側は仮面を付けている。
顔全体が見えないからますます誰かわからない!!
「ど、どなたでしょう! ふ、不審者!?」
「違う!」
全力で否定されてしまった。
片側仮面の男は、スラリと腰の剣を抜きマレット伯爵様の首筋に向けた。
マレット伯爵様は、「ひいっ……!」と腰が抜けている。
「貴様! 何者だ!?」
その質問は私がしたい!
あなた様はどなたでしょうか!?
「ノクサス様! ひっ捕らえますか!」
「斬る!」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
ここを殺人現場にする気ですか!?
よく見たら、ノクサス様と呼んだ方は昨日来たフェルという使者の方だ。
ということは、このノクサス様と呼ばれた片側仮面の方が、あの英雄騎士と呼ばれているノクサス様!?
「どうした? この男は君に触れたのだぞ」
「そ、そうですが、止めをここでさせるわけには……!」
どうして、ノクサス様が怒っているのでしょうか!?
迫力がありすぎて怖い!!
「君が言うなら、ここは抑えよう」
「あ、ありがとうございます」
そう言いながら、剣を腰の鞘に納めてくれた。
「ダリアのおかげで命拾いをしたな。二度と近づくな!」
ノクサス様は、短い言葉で必要なことを言うと、マレット伯爵は抜けた腰を必死に起こして乗って来た馬車に乗り込んだ。
そして、あっという間に去ってしまった。
借金の返済のことも、妾にあがることを待ってもらうことも話がついてないのに……いいのだろうか。
呆然と立ち尽くす私に、フェルという使者は朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ダリア様。こちらが、主のノクサス・リヴァディオ様です」
やはり、この方がノクサス様で間違いなかった……。
「ダリア、怖かっただろう? 大丈夫か?」
呆然としたままの私に、ノクサス様が心配そうに聞いてきた。
「ノクサス様……? 私……」
「やはり君は俺を知っているんだな!?」
「ノクサス様、こちらのダリア様でお間違えの無いですね?」
「間違いない! ダリアだ! ダリアも俺がわかっている!」
会話がおかしい……。
なにかがおかしいのですよ。
興奮気味に、二人の会話は盛り上がっている。
私は、自分の屋敷なのに、おいてきぼりの気分の状態だった。
そして、私はノクサス様のことなんか知りません。
「あの……ノクサス様ですよね?」
「そのようだ!」
そのようだ……って、返答がおかしくないですか?
「ノクサス様、ここでは……」
フェルさんが、ノクサス様の会話を止めた。
そして、またノクサス様は私の方を向く。
私は、呆然としながらも、小刻みに震えている身体を抑えるように両腕を握りしめたままだった。
「そうだな……ダリア、すぐに一緒に行こう。ここは危険だ」
「ここが私の家です……」
「しかし、あの男がまた来ればどうするんだ? 君に何かあれば……」
「ダリア様、とりあえずご一緒ください。ノクサス様のお邸に行きましょう。ダリア様に何かあれば、一大事です」
「で、でもまだ、準備が……!」
「君をここに一人残せない。どうか一緒に来て欲しい。君と話もしたい……」
懇願するように、ノクサス様は私の手を取りそう言った。
まるで私にすがっているように見える。
「ダリア様……どうかノクサス様のお邸でお話を聞いてください」
「……わかりました。お話を聞きます」
「あぁ、良かった。すぐに出発しよう」
ノクサス様は、ほっとしたように笑みを浮かべ私を見た。
その様子に、顔は半分隠れているが、ドキリとした。
簡素な庭に出ると、ノクサス様が乗って来た立派な馬車があった。
御者はどうやら、フェルさんがしているようだ。
「ダリア、こちらに……」
「は、はい」
ノクサス様にエスコートされて馬車に乗った。
そのまま、ノクサス様の乗って来た馬車に乗せられて出発してしまった。
馬車の中では、ノクサス様が向かいに座っていた。
「……ダリア、あの男はなんだ?」
「マレット伯爵様です。私が妾にあがる予定の伯爵様です」
「妾!? 君がか!?」
仮面のない左目が、ぱちくりと見開く。
どうやら、かなり驚きを隠せないらしい。
「どうして妾に……あの男が好きなのか?」
「マレット伯爵様には、借金があるのです。父が亡くなり借金の返済が追い付かなくて……」
「なら、やめてくれ。金なら、なんとかしよう」
「お給金が良いということですか?」
「君に妾になって欲しくない」
「あの……どうして……?」
ノクサス様は、横を向き考えてしまった。
「すまないが、ここでは話せない。邸でゆっくり話したい」
「はい……」
仮面から黒髪が垂れて、灰色の瞳が覗いていた。
引き締まった眼に、どこか困っているのがわかる。
「ダリア……隣に座っても?」
「はい……どうぞ」
ノクサス様は、そう言って私の隣に座り直した。
なんだか不安気にも見える。
そのまま無言になり、馬車はノクサス様の大きな邸に到着した。
ノクサス様のお邸は一際大きかった。
大きな門に、広がる緑の芝生に美しく整えられた庭園。
噴水に、ガゼボまで見える。
邸は大豪邸で、玄関も圧倒されるほどのものだ。馬車の窓に手を当てて目が輝いてしまう。
「ノクサス様……すごいお邸ですね」
「戦の報奨らしい」
らしい……って、ノクサス様がもらったのでは?
この人は、本当にノクサス様なのだろうかと、不安になる。
「ダリア、手を……」
「はい」
馬車から降りるのに、手を差し出されて添えると、ノクサス様は少し嬉しそうだった。
そして、玄関の扉が開く。
執事が主であるノクサス様を迎えたのだ。
執事もまだ若い。20歳代に見える。
「ノクサス様、お帰りなさいませ」
「今帰った」
威厳があるように、主らしく邸に入るノクサス様に続いて私も歩いた。
「アーベル。青の間に行く」
「かしこまりました」
どこに連れて行かれるのだろうと、ノクサス様を見上げると、視線に気づいたのか、ノクサスが振り向いてくれた。
「ダリア、青の間なら人は近づかない。そちらでゆっくりしよう」
「はい……」
なんだろうか……ノクサス様は優しい。
邸の中も豪華絢爛で、立派な調度品に目を奪われる。
絶対にマレット伯爵様よりも、立派な邸だ。
青い絨毯の敷かれた階段を上がると、三階の一番奥の部屋に案内された。
ここは、ノクサス様の私室で休憩などに使っている部屋らしい。
部屋に入るなり、フェルさんは扉を閉めた。
そして、ノクサス様は私の方を向く。
「ダリア、会えて良かった……」
「は、はい……」
これはなんでしょう? と、後ろにいるフェルさんのほうに向くと、微笑ましく頷かれる。
絶対に私の心の声は届いてない。
「ノクサス様、座りましょう。ダリア様にお話を……」
「あぁ、そうだな」
「ダリア様、ご安心ください。この青の間は誰も近寄りませんから」
「は、はぁ……」
何の安心かは、私にはわからない。
人に聞かれたくない話とは一体なんなのだろうか?
お世話係を頼みに来たはずですよね??
そして、向かい合って座る。
「実は……」
フェルさんはそう始めた。
私は、緊張しながら、話に耳を傾けた。
その時、ノックの音がした。
ドアが開くと、執事の方がお茶を持って来たのだ。
「どうぞ。ダリア様」
「ありがとうございます」
香りの良い紅茶だった。
紅茶には、薔薇の花びらが2つ浮かんでおりお洒落だ。
ちょっと可愛い。
「アーベルもそのままいてください」
「かしこまりました」
フェルさんが、アーベルさんも引き留めると、ノクサス様の後ろに立った。
そして、またフェルさんが話を始めた。
「ダリア様、実は……」
「はい」
「ノクサス様のお世話をお願いしたいのです」
「あの……お世話のお仕事にはあがろうと思っておりますが……」
何か違和感がある。
ノクサス様がこちらを見つめているからかもしれない。
その後ろにいるフェルさんとアーベルさんは顔を見合わした。
「本当ですか!? あぁ! 本当に良かった! ダリア様、感謝いたします!」
フェルさんもアーベルさんもほっとしたように喜んだ。
「あの、ノクサス様はどうして私を?」
「……実はだな。……ないのだ」
「何をですか?」
「記憶がないのだ……」
衝撃の発言だった。
それが、私と一体なにが関係あるのだろうか。
この村にあるマレット伯爵様の邸に行こうと着替えを済ませると、朝からマレット伯爵様がやって来た。
「ダリア、暮らしはどうだ? そろそろ家に来ないか?」
やって来るなりマレット伯爵様はお酒臭い。
朝から飲んで来たのか、ご機嫌な感じでやって来た。
王都の夜会からこの村に帰るのに、そのまま私のところに来たのだろう。
そんなマレット伯爵様に、話を始めた。
「あの……妾にあがるのを延期してもらえませんか?」
「今さら金なんか返せないだろう?」
「すぐには無理ですが、仕事が入りそうなのです。以前よりもきっとお返しできるかと……」
「無理だろう。ダリアの収入だけで返せるとは思えないぞ」
うぅ、呆れ顔で、そうあっさり言われるとは……。
確かに私の働いている収入は、魔法治療院での回復だ。
かといって、王都に毎日通っても私だけの収入で借金の返済は無理だった。
「それに、名前で呼べと言っていたはずだが? スタンリーと……」
「は、離れてください! 妾にあがるまでは、なにもしない約束です!」
マレット伯爵様は、私に近づき腰に手を回す
まだ手は出さない約束なのに、お酒臭いせいか約束を忘れたようにしてくる。
一生懸命に押しやるが、離れてくれない。
背筋がゾッとする。必死で唇をかみしめた。
嫌だ!!
そう思った瞬間に、マレット伯爵様の感触がなくなった。
「ぐはぁーー!?」
そして、変なうめき声がした。
どうやら、首根っこを引っ張られたようだ。
「ダリア!! 大丈夫か!?」
知らない人が、私からマレット伯爵様を引きはがしてくれていた。
焦ったように私を心配している。
……でも、見覚えはない。
何故か顔の右側は仮面を付けている。
顔全体が見えないからますます誰かわからない!!
「ど、どなたでしょう! ふ、不審者!?」
「違う!」
全力で否定されてしまった。
片側仮面の男は、スラリと腰の剣を抜きマレット伯爵様の首筋に向けた。
マレット伯爵様は、「ひいっ……!」と腰が抜けている。
「貴様! 何者だ!?」
その質問は私がしたい!
あなた様はどなたでしょうか!?
「ノクサス様! ひっ捕らえますか!」
「斬る!」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
ここを殺人現場にする気ですか!?
よく見たら、ノクサス様と呼んだ方は昨日来たフェルという使者の方だ。
ということは、このノクサス様と呼ばれた片側仮面の方が、あの英雄騎士と呼ばれているノクサス様!?
「どうした? この男は君に触れたのだぞ」
「そ、そうですが、止めをここでさせるわけには……!」
どうして、ノクサス様が怒っているのでしょうか!?
迫力がありすぎて怖い!!
「君が言うなら、ここは抑えよう」
「あ、ありがとうございます」
そう言いながら、剣を腰の鞘に納めてくれた。
「ダリアのおかげで命拾いをしたな。二度と近づくな!」
ノクサス様は、短い言葉で必要なことを言うと、マレット伯爵は抜けた腰を必死に起こして乗って来た馬車に乗り込んだ。
そして、あっという間に去ってしまった。
借金の返済のことも、妾にあがることを待ってもらうことも話がついてないのに……いいのだろうか。
呆然と立ち尽くす私に、フェルという使者は朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ダリア様。こちらが、主のノクサス・リヴァディオ様です」
やはり、この方がノクサス様で間違いなかった……。
「ダリア、怖かっただろう? 大丈夫か?」
呆然としたままの私に、ノクサス様が心配そうに聞いてきた。
「ノクサス様……? 私……」
「やはり君は俺を知っているんだな!?」
「ノクサス様、こちらのダリア様でお間違えの無いですね?」
「間違いない! ダリアだ! ダリアも俺がわかっている!」
会話がおかしい……。
なにかがおかしいのですよ。
興奮気味に、二人の会話は盛り上がっている。
私は、自分の屋敷なのに、おいてきぼりの気分の状態だった。
そして、私はノクサス様のことなんか知りません。
「あの……ノクサス様ですよね?」
「そのようだ!」
そのようだ……って、返答がおかしくないですか?
「ノクサス様、ここでは……」
フェルさんが、ノクサス様の会話を止めた。
そして、またノクサス様は私の方を向く。
私は、呆然としながらも、小刻みに震えている身体を抑えるように両腕を握りしめたままだった。
「そうだな……ダリア、すぐに一緒に行こう。ここは危険だ」
「ここが私の家です……」
「しかし、あの男がまた来ればどうするんだ? 君に何かあれば……」
「ダリア様、とりあえずご一緒ください。ノクサス様のお邸に行きましょう。ダリア様に何かあれば、一大事です」
「で、でもまだ、準備が……!」
「君をここに一人残せない。どうか一緒に来て欲しい。君と話もしたい……」
懇願するように、ノクサス様は私の手を取りそう言った。
まるで私にすがっているように見える。
「ダリア様……どうかノクサス様のお邸でお話を聞いてください」
「……わかりました。お話を聞きます」
「あぁ、良かった。すぐに出発しよう」
ノクサス様は、ほっとしたように笑みを浮かべ私を見た。
その様子に、顔は半分隠れているが、ドキリとした。
簡素な庭に出ると、ノクサス様が乗って来た立派な馬車があった。
御者はどうやら、フェルさんがしているようだ。
「ダリア、こちらに……」
「は、はい」
ノクサス様にエスコートされて馬車に乗った。
そのまま、ノクサス様の乗って来た馬車に乗せられて出発してしまった。
馬車の中では、ノクサス様が向かいに座っていた。
「……ダリア、あの男はなんだ?」
「マレット伯爵様です。私が妾にあがる予定の伯爵様です」
「妾!? 君がか!?」
仮面のない左目が、ぱちくりと見開く。
どうやら、かなり驚きを隠せないらしい。
「どうして妾に……あの男が好きなのか?」
「マレット伯爵様には、借金があるのです。父が亡くなり借金の返済が追い付かなくて……」
「なら、やめてくれ。金なら、なんとかしよう」
「お給金が良いということですか?」
「君に妾になって欲しくない」
「あの……どうして……?」
ノクサス様は、横を向き考えてしまった。
「すまないが、ここでは話せない。邸でゆっくり話したい」
「はい……」
仮面から黒髪が垂れて、灰色の瞳が覗いていた。
引き締まった眼に、どこか困っているのがわかる。
「ダリア……隣に座っても?」
「はい……どうぞ」
ノクサス様は、そう言って私の隣に座り直した。
なんだか不安気にも見える。
そのまま無言になり、馬車はノクサス様の大きな邸に到着した。
ノクサス様のお邸は一際大きかった。
大きな門に、広がる緑の芝生に美しく整えられた庭園。
噴水に、ガゼボまで見える。
邸は大豪邸で、玄関も圧倒されるほどのものだ。馬車の窓に手を当てて目が輝いてしまう。
「ノクサス様……すごいお邸ですね」
「戦の報奨らしい」
らしい……って、ノクサス様がもらったのでは?
この人は、本当にノクサス様なのだろうかと、不安になる。
「ダリア、手を……」
「はい」
馬車から降りるのに、手を差し出されて添えると、ノクサス様は少し嬉しそうだった。
そして、玄関の扉が開く。
執事が主であるノクサス様を迎えたのだ。
執事もまだ若い。20歳代に見える。
「ノクサス様、お帰りなさいませ」
「今帰った」
威厳があるように、主らしく邸に入るノクサス様に続いて私も歩いた。
「アーベル。青の間に行く」
「かしこまりました」
どこに連れて行かれるのだろうと、ノクサス様を見上げると、視線に気づいたのか、ノクサスが振り向いてくれた。
「ダリア、青の間なら人は近づかない。そちらでゆっくりしよう」
「はい……」
なんだろうか……ノクサス様は優しい。
邸の中も豪華絢爛で、立派な調度品に目を奪われる。
絶対にマレット伯爵様よりも、立派な邸だ。
青い絨毯の敷かれた階段を上がると、三階の一番奥の部屋に案内された。
ここは、ノクサス様の私室で休憩などに使っている部屋らしい。
部屋に入るなり、フェルさんは扉を閉めた。
そして、ノクサス様は私の方を向く。
「ダリア、会えて良かった……」
「は、はい……」
これはなんでしょう? と、後ろにいるフェルさんのほうに向くと、微笑ましく頷かれる。
絶対に私の心の声は届いてない。
「ノクサス様、座りましょう。ダリア様にお話を……」
「あぁ、そうだな」
「ダリア様、ご安心ください。この青の間は誰も近寄りませんから」
「は、はぁ……」
何の安心かは、私にはわからない。
人に聞かれたくない話とは一体なんなのだろうか?
お世話係を頼みに来たはずですよね??
そして、向かい合って座る。
「実は……」
フェルさんはそう始めた。
私は、緊張しながら、話に耳を傾けた。
その時、ノックの音がした。
ドアが開くと、執事の方がお茶を持って来たのだ。
「どうぞ。ダリア様」
「ありがとうございます」
香りの良い紅茶だった。
紅茶には、薔薇の花びらが2つ浮かんでおりお洒落だ。
ちょっと可愛い。
「アーベルもそのままいてください」
「かしこまりました」
フェルさんが、アーベルさんも引き留めると、ノクサス様の後ろに立った。
そして、またフェルさんが話を始めた。
「ダリア様、実は……」
「はい」
「ノクサス様のお世話をお願いしたいのです」
「あの……お世話のお仕事にはあがろうと思っておりますが……」
何か違和感がある。
ノクサス様がこちらを見つめているからかもしれない。
その後ろにいるフェルさんとアーベルさんは顔を見合わした。
「本当ですか!? あぁ! 本当に良かった! ダリア様、感謝いたします!」
フェルさんもアーベルさんもほっとしたように喜んだ。
「あの、ノクサス様はどうして私を?」
「……実はだな。……ないのだ」
「何をですか?」
「記憶がないのだ……」
衝撃の発言だった。
それが、私と一体なにが関係あるのだろうか。