英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
少しの距離
ノクサス様は、眠ってしまったままだった。
体格のがっしりしたノクサス様を抱えることが出来ずに、ソファーで無防備に眠っている。
ここには、私とミストしかいないから、仮面も外したままで、黒髪がサラリと額を隠している。その髪を撫でても、起きることはなかった。
「ダリア様。もう夜ですよ。行かないのですか?」
「ノクサス様はどうしましょう? ここに置いて行くわけには……」
「ほおっておいても大丈夫でしょう。一人でここまで来たみたいですし、一人で帰れますよ」
「でも、また、置いて行ったら探されそうなんだけど……」
あんなに必死に探されると、とてもじゃないが置いていけない。
でも連れても行けない。しかも、呪いの手当てをせずに私を探すなんて、一体なにを考えているのかしら……。
「師匠がいれば力になってもらおうかと思ったんだけど……」
「金を取られますよ」
「うっ……それはそうだけど……ノクサス様は困っているみたいだし……」
「この男に払わすつもりはなかったのですか?」
「ノクサス様のお邸でよくしてもらっているからね……」
ミストは、「お人好しすぎる……」と呟き、いきなりノクサス様の顔に飛び乗った。
「……っ!?」
「こ、こらっ! ミスト!?」
その衝撃でやっとノクサス様の目が覚めた。
ノクサス様は、無言でミストの首根っこを掴み、睨んでいる。
「……随分攻撃的な猫だな。本当にダリアの猫か?」
「シャーッ!! うるさい! 穢れた不審者め! さっさと起きろ!」
「ミスト! ……すみません、ノクサス様」
ミストは、無理やりノクサス様を起こして、尻尾でノクサス様を払うと私に飛び乗ってきた。
「ノクサス様、お腹は減っていませんか? スープなら出せますけど……」
「ダリアが作ったのか?」
「はい。料理人のように立派なものではありませんが……」
「世界で一番美味しいぞ」
「まだ食べていませんよ……」
嬉しそうに、ノクサス様は頬づえをついて見ていた。
視線が刺さり照れる。
「ダリア様。飯なんか食べている暇はありますか?」
「いいのよ。外は雨で寒いし、温かい物を食べてもらいたいわ」
「なら僕はその間は休んでおきます」
「そうしてちょうだい。ノクサス様なら本当に心配いらないから」
こういうところは猫のせいか、ミストは気まぐれでさっさとどこかへ行ってしまった。
ずっとこちらを見ているノクサス様を居間のソファーに置いて厨房でスープを温めなおしていると、待てないのか、ノクサス様がやって来た。
「ノクサス様、すぐにお持ちしますから、階上でお待ちください」
「……今日はどこに行くつもりだったんだ? 家に帰りたいだけで、黙って行くか? ダリアがそんなことをするとは思えないんだが……」
本当のことは言えない。
「……師匠に会いに来ただけです。もう、いませんでしたが……」
「師匠? その師匠に何の用があったんだ?」
「……ノクサス様の呪いを治してもらおうかと。とても能力の高い魔法使いだったんです」
「治せるのか!? その師匠はどこだ!?」
「先週亡くなったそうです。変わり者だったんですけど……誰にも告げずに逝ったそうで……」
「亡くなった……?」
「はい。もっと早くにノクサス様とお会いしていたら良かったです」
ノクサス様は落ち込んでしまったのだろうか。少し考え込んでしまった。
「一人で心細かっただろう……父上も亡くなったと聞いている」
慈しむようにそっと頭を撫でられた。
私を慰めようとしてくれるのがわかる。
「すみません。もしかしたら、師匠なら治せたかもしれないのに……」
本当は、それだけが目的で来たのではなかった。
でも、もっと早く私が師匠に会いに来ていれば良かった……そう思うと、後悔をしてしまう。
「俺のことは気にするな。ダリアが、落ち込むほうが心配だ」
申し訳なくなった。ノクサス様は、自分のことよりも、私のことを気にしてくれる。
噓をついてまで黙って来た自分が恥ずかしくなる。思わず、顔を上げられなくなった。
「……ノクサス様は優しいですね」
「そうか? フェルやアーベルが言うには、俺は女に優しくなかったそうだ。騎士のことばかりで、冷酷だったそうだぞ」
「……冗談ですよね?」
「記憶がないから、わからないな」
「はぁ……そうですね」
ノクサス様は、微妙に変ですよ。
ものすごくグイグイくるし……。
夕べは人のベッドに忍び込んでいましたけど……。
この記憶もどうにかしないと、元の人格と違うのではないのかしらね……。
不思議に思う中、スープが温まりノクサス様に出し、すぐに食べたいと言うから、そのまま厨房で二人並んで座った。
「ダリア、美味しいぞ。また、作ってくれるか?」
「はい。いつでも作りますよ」
「では、結婚をしてくれるのだな」
「それとこれとは違います」
サラリと当然のように言うノクサス様はやっぱり変人だ。
それでも結婚は了承出来ないけれど、またスープは作ってあげたいと思う。
スープが食べ終わると、スプーンを置いた手を握られる。
ノクサス様は、真剣な表情だけど、穏やかに私を見ている。
「ダリア。一緒に邸に帰ってくれるか? ダリアがこの屋敷が良いなら、俺がダリアの屋敷に引っ越そう」
「……一緒に帰ります」
ノクサス様は、騎士団本部で仕事があるのだから、こんなにボロ家に来てもらうわけにはいかない。
……それに、ノクサス様となら一緒に帰ろうか、という気持ちになっていた。
体格のがっしりしたノクサス様を抱えることが出来ずに、ソファーで無防備に眠っている。
ここには、私とミストしかいないから、仮面も外したままで、黒髪がサラリと額を隠している。その髪を撫でても、起きることはなかった。
「ダリア様。もう夜ですよ。行かないのですか?」
「ノクサス様はどうしましょう? ここに置いて行くわけには……」
「ほおっておいても大丈夫でしょう。一人でここまで来たみたいですし、一人で帰れますよ」
「でも、また、置いて行ったら探されそうなんだけど……」
あんなに必死に探されると、とてもじゃないが置いていけない。
でも連れても行けない。しかも、呪いの手当てをせずに私を探すなんて、一体なにを考えているのかしら……。
「師匠がいれば力になってもらおうかと思ったんだけど……」
「金を取られますよ」
「うっ……それはそうだけど……ノクサス様は困っているみたいだし……」
「この男に払わすつもりはなかったのですか?」
「ノクサス様のお邸でよくしてもらっているからね……」
ミストは、「お人好しすぎる……」と呟き、いきなりノクサス様の顔に飛び乗った。
「……っ!?」
「こ、こらっ! ミスト!?」
その衝撃でやっとノクサス様の目が覚めた。
ノクサス様は、無言でミストの首根っこを掴み、睨んでいる。
「……随分攻撃的な猫だな。本当にダリアの猫か?」
「シャーッ!! うるさい! 穢れた不審者め! さっさと起きろ!」
「ミスト! ……すみません、ノクサス様」
ミストは、無理やりノクサス様を起こして、尻尾でノクサス様を払うと私に飛び乗ってきた。
「ノクサス様、お腹は減っていませんか? スープなら出せますけど……」
「ダリアが作ったのか?」
「はい。料理人のように立派なものではありませんが……」
「世界で一番美味しいぞ」
「まだ食べていませんよ……」
嬉しそうに、ノクサス様は頬づえをついて見ていた。
視線が刺さり照れる。
「ダリア様。飯なんか食べている暇はありますか?」
「いいのよ。外は雨で寒いし、温かい物を食べてもらいたいわ」
「なら僕はその間は休んでおきます」
「そうしてちょうだい。ノクサス様なら本当に心配いらないから」
こういうところは猫のせいか、ミストは気まぐれでさっさとどこかへ行ってしまった。
ずっとこちらを見ているノクサス様を居間のソファーに置いて厨房でスープを温めなおしていると、待てないのか、ノクサス様がやって来た。
「ノクサス様、すぐにお持ちしますから、階上でお待ちください」
「……今日はどこに行くつもりだったんだ? 家に帰りたいだけで、黙って行くか? ダリアがそんなことをするとは思えないんだが……」
本当のことは言えない。
「……師匠に会いに来ただけです。もう、いませんでしたが……」
「師匠? その師匠に何の用があったんだ?」
「……ノクサス様の呪いを治してもらおうかと。とても能力の高い魔法使いだったんです」
「治せるのか!? その師匠はどこだ!?」
「先週亡くなったそうです。変わり者だったんですけど……誰にも告げずに逝ったそうで……」
「亡くなった……?」
「はい。もっと早くにノクサス様とお会いしていたら良かったです」
ノクサス様は落ち込んでしまったのだろうか。少し考え込んでしまった。
「一人で心細かっただろう……父上も亡くなったと聞いている」
慈しむようにそっと頭を撫でられた。
私を慰めようとしてくれるのがわかる。
「すみません。もしかしたら、師匠なら治せたかもしれないのに……」
本当は、それだけが目的で来たのではなかった。
でも、もっと早く私が師匠に会いに来ていれば良かった……そう思うと、後悔をしてしまう。
「俺のことは気にするな。ダリアが、落ち込むほうが心配だ」
申し訳なくなった。ノクサス様は、自分のことよりも、私のことを気にしてくれる。
噓をついてまで黙って来た自分が恥ずかしくなる。思わず、顔を上げられなくなった。
「……ノクサス様は優しいですね」
「そうか? フェルやアーベルが言うには、俺は女に優しくなかったそうだ。騎士のことばかりで、冷酷だったそうだぞ」
「……冗談ですよね?」
「記憶がないから、わからないな」
「はぁ……そうですね」
ノクサス様は、微妙に変ですよ。
ものすごくグイグイくるし……。
夕べは人のベッドに忍び込んでいましたけど……。
この記憶もどうにかしないと、元の人格と違うのではないのかしらね……。
不思議に思う中、スープが温まりノクサス様に出し、すぐに食べたいと言うから、そのまま厨房で二人並んで座った。
「ダリア、美味しいぞ。また、作ってくれるか?」
「はい。いつでも作りますよ」
「では、結婚をしてくれるのだな」
「それとこれとは違います」
サラリと当然のように言うノクサス様はやっぱり変人だ。
それでも結婚は了承出来ないけれど、またスープは作ってあげたいと思う。
スープが食べ終わると、スプーンを置いた手を握られる。
ノクサス様は、真剣な表情だけど、穏やかに私を見ている。
「ダリア。一緒に邸に帰ってくれるか? ダリアがこの屋敷が良いなら、俺がダリアの屋敷に引っ越そう」
「……一緒に帰ります」
ノクサス様は、騎士団本部で仕事があるのだから、こんなにボロ家に来てもらうわけにはいかない。
……それに、ノクサス様となら一緒に帰ろうか、という気持ちになっていた。