英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
白猫は知っていた
「……ノクサス様。少しいいですか?」
「どうした?」
フェルが、厳しい顔でやって来た。
捕らえた男たちの様子がおかしいらしい。
「男たちの血が止まらないのです……。最近負った傷にも見えないものもあり、服の下の包帯は血まみれなのですよ。そして、何故かダリア様に助けを求めていまして……」
捕えるのに、抵抗すらしなかった男たちだが、何故か自分たちが襲ったダリアに助けを求めていた。
「私を……? でも、私が使ったのは、魔法です。血まみれになるような怪我を負うほどの能力はないのですが……」
ダリアは、おかしいと思いながら考えている。
側に座り込んでいる元の大きさに戻っているミストに聞くと、フンッと顔を背けてしまった。
「ミストがやったのか?」
「あいつらのは自業自得だ! ダリア様を傷つけたバツだ!」
「なにをした?」
「変態男なんかには言わないぞ!」
「その変態男はやめろ!」
ミストはなにか知っているようだが、子供のようにツンとしている。
「ミスト、知っているなら教えてちょうだい。納屋で襲ってきた男の方の腕にはミストにはじかれた時に負った爪痕から、ずっと血が流れていたわ。そんなに深く爪を立てたの?」
「ダリア様になら言います」
ミストは、きっぱりとそう言った。どんな温度差だ。
ダリアの側にやって来て、擦り寄るミストにダリアは優しく撫でている。
この猫は、呆れるほどダリアのことしか気にしてない。
「……セフィーロ様が、あの男たちに魔法をかけたのです。傷が治らない呪いです。あの男たちの生命力を阻害する呪いなのです。そんな呪いがかかっているから、あの男たちの寿命はドンドン削られています」
「師匠が……? どうしてそんなことを……」
「ダリア様を傷つけたからです。自業自得です。それに、ルヴェル伯爵様は、あの男たちを殺そうとしていました。許せないと、ずっと苦しんでいたのです。ダリア様は、ずっと寝ていたから知らなかったと思うのですが……でもそれをセフィーロ様が、止めました。ルヴェル伯爵様が、もし、捕まったらダリア様が悲しむと言って……」
「うつつで、お父様の『許せない』という言葉は聞いていたけれど……でもまさか、男たちを殺そうとまで追い詰めていたなんて……」
「そのあとにセフィーロ様が、あいつらに魔法をかけたのです。『私の可愛い弟子を傷つけた罪は重いぞ』とあいつらに言っていました」
ミストは、ペラペラと流暢にダリアに話した。
殺さずに、こんな怪我が治らない魔法をかけるなんて、一生苦しめ、と言っているようなものだ。実際、男たちはダリアに助けを求めている。そして、一方で恨んでいる。
だから、ずっと狙われていたのだろう。
「私があんな目にあったから、お父様を苦しめてしまったのね……」
「ダリアのせいではない。ミストの言う通り、あれは男たちの自業自得だ。娘を傷つけられて平気な親はいない」
ダリアが自分を責める必要はない。ルヴェル伯爵は、娘を思っていただけなのだ。
それでも、叡智の魔法使いと呼ばれたセフィーロが、止めてくれたことには感謝している。
もしも、父上がこの男たちを殺してしまったら、ダリアはもっと自分を責めただろう。
セフィーロも、きっとそれがわかっていたのだ。
「ノクサス様、離してください。彼らの元に行きます」
「……一人では行かせない。ずっと側にいるから、怖がることはない」
そう言うと、ダリアは安心するように少しだけ微笑んだ。
ダリアを、マントの中に入れたまま肩を抱き寄せて男たちの元に行くと、ノインの回復魔法でも傷はふさがってなかった。
ノインは、決して能力の低い白魔法使いではない。それなのに、ミストがひっかいたあとであろう傷すらふさがらない。
そして、驚いたのは、腕の斬られた傷だ。
男2人は、その斬られたせいで腕がもう動かなくなっている。……それに、見覚えがあった。
あの日、向かってきた男に俺が斬ったあとだった。斬ったあとは、恐ろしくなったのか、そのまま逃げ出し、回復魔法もかけさせずに、村から追い出したが……いまだに治りきらずに、血が流れていたとは……。
「た、助けてくれ! 俺たちは、もう傷が治らないんだ!? 頼む……っ!」
「あの時は、悪かったよ……っ、許してくれ……っ」
「お前のせいで、俺たちは……うぅぅ……」
許しを請う者に、歯を食いしばり、涙を流す者もいた。
ダリアは、その様子を見て微かに震えて、怯えるようにしがみついてきていた。
「……ノクサス様、私、」
「ダリアは、先に休ませる。……フェル、男たちはすぐに連れていけ」
そう指示すると、フェルたちは男たちを拘束したまま引き連れてきた馬車に乗り込んだ。
泣きながら嗚咽を漏らし、「もう、おしまいだ……」と呟きながら、呆然と乗り込んで行く男たちに、この一年苦しんだのだろうと想像はついた。
だが、セフィーロはこのことをダリアに言わなかったのは、一生治す気はなかったのではないだろうか。
「ダリア。悪いがすぐに王都に帰るぞ。村も騒ぎ出している。今のうちに去ったほうがいい。マレット伯爵には、フェルに説明に行かせる。フェルなら、悪いようにはしないから心配することはない」
「……彼らは?」
「それ相応の償いはしてもらう。だが、まずは、ダリアが休んでからだ。顔色が悪すぎる」
顔色がまた、蒼白になりそうだと思った。そう思うだけで、ゾッとする。
そのまま、抱き上げてダリアを馬に乗せた。ミストも抜け目なくダリアの側の飛び乗ってきた。
後始末に何人かの騎士たちを残し、ロバートやノインたちを引き連れて、急いで王都に帰った。
ダリアは、魔力の使いすぎで疲れてしまい、腕の中で眠ってしまっていた。
「どうした?」
フェルが、厳しい顔でやって来た。
捕らえた男たちの様子がおかしいらしい。
「男たちの血が止まらないのです……。最近負った傷にも見えないものもあり、服の下の包帯は血まみれなのですよ。そして、何故かダリア様に助けを求めていまして……」
捕えるのに、抵抗すらしなかった男たちだが、何故か自分たちが襲ったダリアに助けを求めていた。
「私を……? でも、私が使ったのは、魔法です。血まみれになるような怪我を負うほどの能力はないのですが……」
ダリアは、おかしいと思いながら考えている。
側に座り込んでいる元の大きさに戻っているミストに聞くと、フンッと顔を背けてしまった。
「ミストがやったのか?」
「あいつらのは自業自得だ! ダリア様を傷つけたバツだ!」
「なにをした?」
「変態男なんかには言わないぞ!」
「その変態男はやめろ!」
ミストはなにか知っているようだが、子供のようにツンとしている。
「ミスト、知っているなら教えてちょうだい。納屋で襲ってきた男の方の腕にはミストにはじかれた時に負った爪痕から、ずっと血が流れていたわ。そんなに深く爪を立てたの?」
「ダリア様になら言います」
ミストは、きっぱりとそう言った。どんな温度差だ。
ダリアの側にやって来て、擦り寄るミストにダリアは優しく撫でている。
この猫は、呆れるほどダリアのことしか気にしてない。
「……セフィーロ様が、あの男たちに魔法をかけたのです。傷が治らない呪いです。あの男たちの生命力を阻害する呪いなのです。そんな呪いがかかっているから、あの男たちの寿命はドンドン削られています」
「師匠が……? どうしてそんなことを……」
「ダリア様を傷つけたからです。自業自得です。それに、ルヴェル伯爵様は、あの男たちを殺そうとしていました。許せないと、ずっと苦しんでいたのです。ダリア様は、ずっと寝ていたから知らなかったと思うのですが……でもそれをセフィーロ様が、止めました。ルヴェル伯爵様が、もし、捕まったらダリア様が悲しむと言って……」
「うつつで、お父様の『許せない』という言葉は聞いていたけれど……でもまさか、男たちを殺そうとまで追い詰めていたなんて……」
「そのあとにセフィーロ様が、あいつらに魔法をかけたのです。『私の可愛い弟子を傷つけた罪は重いぞ』とあいつらに言っていました」
ミストは、ペラペラと流暢にダリアに話した。
殺さずに、こんな怪我が治らない魔法をかけるなんて、一生苦しめ、と言っているようなものだ。実際、男たちはダリアに助けを求めている。そして、一方で恨んでいる。
だから、ずっと狙われていたのだろう。
「私があんな目にあったから、お父様を苦しめてしまったのね……」
「ダリアのせいではない。ミストの言う通り、あれは男たちの自業自得だ。娘を傷つけられて平気な親はいない」
ダリアが自分を責める必要はない。ルヴェル伯爵は、娘を思っていただけなのだ。
それでも、叡智の魔法使いと呼ばれたセフィーロが、止めてくれたことには感謝している。
もしも、父上がこの男たちを殺してしまったら、ダリアはもっと自分を責めただろう。
セフィーロも、きっとそれがわかっていたのだ。
「ノクサス様、離してください。彼らの元に行きます」
「……一人では行かせない。ずっと側にいるから、怖がることはない」
そう言うと、ダリアは安心するように少しだけ微笑んだ。
ダリアを、マントの中に入れたまま肩を抱き寄せて男たちの元に行くと、ノインの回復魔法でも傷はふさがってなかった。
ノインは、決して能力の低い白魔法使いではない。それなのに、ミストがひっかいたあとであろう傷すらふさがらない。
そして、驚いたのは、腕の斬られた傷だ。
男2人は、その斬られたせいで腕がもう動かなくなっている。……それに、見覚えがあった。
あの日、向かってきた男に俺が斬ったあとだった。斬ったあとは、恐ろしくなったのか、そのまま逃げ出し、回復魔法もかけさせずに、村から追い出したが……いまだに治りきらずに、血が流れていたとは……。
「た、助けてくれ! 俺たちは、もう傷が治らないんだ!? 頼む……っ!」
「あの時は、悪かったよ……っ、許してくれ……っ」
「お前のせいで、俺たちは……うぅぅ……」
許しを請う者に、歯を食いしばり、涙を流す者もいた。
ダリアは、その様子を見て微かに震えて、怯えるようにしがみついてきていた。
「……ノクサス様、私、」
「ダリアは、先に休ませる。……フェル、男たちはすぐに連れていけ」
そう指示すると、フェルたちは男たちを拘束したまま引き連れてきた馬車に乗り込んだ。
泣きながら嗚咽を漏らし、「もう、おしまいだ……」と呟きながら、呆然と乗り込んで行く男たちに、この一年苦しんだのだろうと想像はついた。
だが、セフィーロはこのことをダリアに言わなかったのは、一生治す気はなかったのではないだろうか。
「ダリア。悪いがすぐに王都に帰るぞ。村も騒ぎ出している。今のうちに去ったほうがいい。マレット伯爵には、フェルに説明に行かせる。フェルなら、悪いようにはしないから心配することはない」
「……彼らは?」
「それ相応の償いはしてもらう。だが、まずは、ダリアが休んでからだ。顔色が悪すぎる」
顔色がまた、蒼白になりそうだと思った。そう思うだけで、ゾッとする。
そのまま、抱き上げてダリアを馬に乗せた。ミストも抜け目なくダリアの側の飛び乗ってきた。
後始末に何人かの騎士たちを残し、ロバートやノインたちを引き連れて、急いで王都に帰った。
ダリアは、魔力の使いすぎで疲れてしまい、腕の中で眠ってしまっていた。