英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

獣化の呪い

ノクサス様のお邸に着き、手をつないで歩いていた。
指を絡めるように手をつないでいると恥ずかしい。
ノクサス様は、どうなんだろうか、と見上げると恥ずかしさは一瞬で消えた。
顔色が悪い。さっきまではこんな顔色ではなかった。

「ノクサス様……!?」

荒げた声をあげると、後ろにいるフェルさんとロバートさんが駆け寄った。
ノクサス様は、顔を抑えており、いまにも倒れそうだ。

「フェルさん! ロバートさん! すぐにお部屋に!! アーベルさん、魔法薬を持ってきてください!!」
「「「は、はい!!」」」

倒れそうなノクサス様を支えてそう言った。
アーベルさんは、急いで魔法薬を取りに走った。

「ノクサス様。すぐにお部屋に行きましょうね」
「……すまない」

フェルさんとロバートさんがノクサス様を支えて部屋に連れて行くが、おかしいと思う。
ベッドに倒れるようにぐったりとしているノクサス様の仮面を外すと黒いモヤが溢れるように出てきた。

「……!? どうして急にこんなことに……!」

ノクサス様の顔に手をかざし、急いで浄化の魔法をかけると、白魔法の光で黒いモヤが押されていっていた。

「ダリア様……以前よりも能力が強くなって……」
「以前は、能力を下げていたからです。それよりも、ノエルさんとミストを連れて来てください! すぐに魔喰いの魔石を使います!!」

フェルさんに叫ぶように言った。

こんな急に呪いの進行が始まるなんて、おかしすぎる!
間違いない! 誰かが呪いを増幅しているんだわ!!

「ダリア様! 危ない!!」

手をノクサス様にかざしたまま、フェルさんの方を向いていたら、いきなりロバートさんが押し倒すように庇って来た。

腕がうっすらと切れている。そのまま、ロバートさんにつながるように切れていた。

「ノクサス様……。フェルさん、私のことは気にせず早くノエルさんとミストをお願いします」

フェルさんは、この様子に戸惑っているけれど、彼ができることはない。
それがわかっているのか、すぐに走って行った。

ノクサス様は、息使い荒く叫びたいのを我慢するように歯を食いしばっている。
その歯は牙が見え始め、縦長の瞳孔。爪は獣のように鋭く伸びている。
獣化の呪いに蝕まれているのは明らかだった。

胸が痛い。ノクサス様はどれほど苦しいだろうか……と胸が締め付けられた。

「ロバートさん。その怪我は必ず治しますから、少しだけ待ってくださいね」
「ダリア様……今は近づかない方が……」
「ノクサス様は、大丈夫ですよ……ノクサス様、少しだけ我慢してくださいね」

ノクサス様に我慢してください……といったのは伝わるだろうか。
わからない。
でも、いきなり私とロバートさんに襲い掛からないように我慢しているように見える。
だって、ベッドの上に身体を起こしてシーツを握りしめているノクサス様は、汗が出るほど苦しそうだ。

静かに手を伸ばして、ノクサス様のいるベッドごと白い魔法で包んだ。
それは段々と檻の形になっていく。
これなら、獣になってもロバートさんを襲ったりしない。

「少しの間、ノクサス様をここに閉じ込めます。ロバートさんは、ヤドリギごと魔喰いの魔石を持ってきてください。……お願いします。今はノクサス様の側を離れたくないのです」
「……わかりました。すぐに持ってきます」

ロバートさんは、急いでヤドリギを置いてある部屋に行った。

目の前のノクサス様は、うなり声を抑えているように苦しんでいる。
……ノクサス様は、優しい人だ。私を、襲わないように堪えているんだと思った。
その様子に涙が出そうだった。でも、苦しいのは私じゃない。

「ダリア様! 持ってきました!」

ロバートさんは、すぐにヤドリギごと抱えて飛び込んできた。

「すぐに魔喰いの魔石を埋め込みます! 離れていて下さい! ノエルさんたちが来れば、呪いの浄化をお願いします!」

魔喰いの魔石を埋め込んだ後、私の魔力が残るかはわからない。
少しでも、正常に戻すには、埋め込んだ後も浄化の魔法を使う事だ。

ロバートさんは、言われたようにノクサス様を気にしながらも離れてくれる。
私は、魔喰いの魔石を取り、ノクサス様を閉じ込めている魔法の檻の前に立った。

そして、魔法を発動させた。

白い光が私から伸びて、渦を巻くようにノクサス様を包んでいった。
魔法の檻を解き、迷わずノクサス様に近づく。

白い光は、段々と古代文字になり、鎖のようにノクサス様を縛る。
私は、師匠の残した本で覚えた文字を魔法で描く。
そして、ノクサス様の額に小さな魔法陣が浮かぶ。中心には魔喰いの魔石が浮かんでいる。

ノクサス様は苦しんでいる。

「ノクサス様……大丈夫ですよ。私にしがみついてください」

そう言うと、抱きつくようにしがみついてきた。
理性があるのだとわかる。

黒いモヤの呪いは、魔喰いの魔石を押し出そうとしているのか、力は増している。
私は、魔喰いの魔石を埋め込む魔法陣を展開しているから、この呪いを押し出すための浄化の魔法は使えない。
同時に2つも3つも魔法は使えないのだ。

でも、このまま獣になってしまえばノクサス様はどこかへ行ってしまいそうだ。
そんなことは絶対にさせない。

そう思うと、一層魔法に力を込めた。

「ダリア様!!」
「あっちへいけ!! 穢らわしい呪いめ!!」

辺りが霧に包まれた。
そして、私の魔法とは違う白い光がノクサス様の額に降って来た。




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