英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。
白猫の地団駄と護衛の情報
ミストとノエルさんが部屋に飛び込んできた。
2人は飛び込んでくるなり、状況を察したようですぐに私とノクサス様を助けてくれようとしている。
ミストの吐いた霧は清浄なもので、この中で呪いは力を弱めた。
ノエルさんは、ノクサス様の呪いが少しでもおさえられるように、浄化の魔法をかけている。
「ダリア様!! このまま呪いを押します! 魔喰いの魔石を埋め込んでください!」
「はい!! お願いします!」
ノエルさんがそう叫びながら言った。
おかげでさっきよりも呪いの黒いモヤが消えている。術者に返っているのかもしれない。
でも、そうなら……。
「……っ!?」
ノクサス様の額のかざしている手が、急にピリッとした。
向こうも呪いの増幅を増しているのだろう。私のかざしている手まで穢そうとして来た。
こんなことにする魔法使いに負けたくない。私はノクサス様を助けると決めたのだ。
いっそう魔喰いの魔石を埋め込む魔力に力を込めた。
「……穢らわしい! ダリア様に穢らわしいモノで触るな!!」
この呪いの黒いモヤが、私の手を穢そうとしたところでミストが大きくなり怒り始めた。
そして、ミストの咆哮でノクサス様の部屋の窓が一斉に割れる。
「近づくな! 近づくなぁーー!!」
ミストが前脚でダンダンっと地団駄を踏むようにすると、床が揺れるほどの衝撃をおこし、私とノクサス様に向けてより濃い霧を吐いた。食べられるかと思うほど大きな口で、ミストの吐いたより濃い霧は今までで一番清浄なものだった。
呪いの黒いモヤはその霧に堪らないのか、少しずつ力が弱まっている。
魔喰いの魔石は少しずつノクサス様の額に埋まっていっている。
そして、呪いの黒いモヤと一緒にノクサス様の額に入り込んだ。
ノクサス様は、私にもたれるように倒れている。
いくら身体が丈夫でも、獣化の呪いは進行しており、もうすぐで本当に獣になるところだったのだ。意識を失ってもおかしくない。
でも、元に戻っている。
倒れたままもたれているノクサス様の頭を抱きしめた。
「……ノクサス様っ……!」
どこにも行かなくて安心したのか、胸がいっぱいになっていた。
ノクサス様の部屋はミストが壊したために、別の部屋でノクサス様は眠っている。
呼吸は緩やかで、落ち着いている。その様子に安堵した。
「……あの女は許せません! 変態男だけじゃなくて、ダリア様も穢そうとしていました!」
いつもの猫の大きさに戻ったミストは、また前脚をダンダンッとしている。
精霊獣のあの姿なら、またノクサス様のお部屋を壊しそうなくらい怒っている。
でも……。
「ミスト。呪いを増幅していたのは、女なの?」
「女の匂いがしました。あの穢れの匂いはもう覚えています!」
怒るミストにアーベルさんが、機嫌を直してもらうようにチーズを出した。
それをミストは、アーベルさんの手から食べ始めた。
「……ランドン公爵令嬢様のお邸にはないのですよ。魔法使いの部屋もない……と先ほど連絡が来ました」
フェルさんが、悩みながらそう言った。
「ランドン公爵様の別邸も調べているのですが……最近ランドン公爵令嬢様が訪れた邸には、見つからなかったのです。午前中は、私とミストで訪れたところもあるのですが……ミストはこんな家に穢れなんかない……と言っていたのですが」
ミストとノエルさんが、ランドン公爵令嬢様のお茶会に来なかったのは、別邸を調べていたせいだった。
ロバートさんは、考えながら思い出したことを話し出した。
「……役に立つか分かりませんが、ランドン公爵令嬢様は、最近は侍女と2人で出かけることが多いそうです。メイドから聞きました」
「メイドって……ロバートさんが口説こうとしていたメイドですか?」
「違います! そのメイドを足止めする時に少しお話を聞かせてもらっただけです!!」
護衛中に、女を口説いているのか、とフェルさんが睨んだ。
それを、ロバートさんは力いっぱい否定する。
「……その侍女の家に隠しているとか……はないですかね?」
「あり得ないことではありませんが……住み込みの侍女が、実家に隠しますかね?」
ノエルさんが、不思議そうに言った。
「侍女の持ち家ということはないですか?」
「……裏付けが必要でしょうから、一度調べるとしても行き先は早々に知りたいですね。ノエル、すぐに行きますか?」
「そうですね。今なら、呪いの増幅を返されていますから、見つけることが出来れば、抵抗する力はないかもしれません。チャンスですね」
ノエルさんがそう言って、すぐに行くつもりなのか杖を持ち始めた。
「ロバート、行き先は聞いているか?」
フェルさんも立ち上がり、マントをかけ始めている。
「くわしい場所は分かりませんが、いつも裏口から、2人で出て行っていたそうです。馬車にも乗らなかったそうですので、おそらくは近い場所にあるかと……」
「ロバートさん……凄いです。よくあの短時間で聞き出せましたね」
「えぇ、ダリア様に勝手をされた時はどうしようかと思いましたが、せっかくの情報を聞き出すチャンスですからね。情報をもっている人間がわからなくても、誰がきっかけとなる情報をもっているかわかりませんから、聞き込みは大事です。情報をもっている本人がわからないこともありますからね」
ロバートさん、優秀です。
空気の読めない困った人かと思っていたのに、こんなに役に立つ人だったとは。
さすが、騎士団長の護衛に抜擢された人だ。
「では、私も行くのでマントと杖を取ってきます」
「ダリア様は留守番ですよ」
フェルさんは、当然のように言った。
「でも、私が行かないとミストが食い殺してしまうかもしれません」
「当然です! ダリア様を傷つけるやつを、僕は許さないです!」
「一応、公爵令嬢様だから、勝手に止めをさすと不味いわ。ミストの正体がバレるかもしれないし……色々人間社会は面倒なのよ。それに、ミストにそんなことをさすために、一緒にいるわけじゃないからね」
腕の中に飛び乗って来たミストの頭を撫でながらそう言った。
でもミストは不思議そうな顔で私を見上げる。
「じゃあ、僕は何のためにダリア様といるんですか?」
「暗殺者にするためじゃないことは確かよ。ミストは、ここで一緒に暮らすのよ。時々はこんな風にお願いすることもあるけれど、ミストは、ミストらしく好きに遊べばいいのよ」
「……セフィーロ様みたいに、すればいいのですか?」
「……師匠の生活を見習う必要はないけれど、そんな感じね。ずっと私やノクサス様といましょう」
あんな好き勝手する生活を見習ってほしくないけれど、猫のミストには師匠の生活が合っていたのかもと思う。
腕の中にいるミストにアーベルさんがそっと撫でて来る。
「ミスト。ここにはノクサス様がミストの部屋も作りましたから、もうこの邸の住人ですよ」
「アーベル……ミルクもくれるか?」
「えぇ、美味しいミルクを出してあげますよ。ミストはミルクが好きですからね」
「ダリア様がいつも飲ませてくれたから、ミルクは大好きだ」
師匠がどこからか拾って来た時は、泥まみれだった。
まだ、子猫でお腹を空かせていたのか、今ほどしゃべらなくて小さく鳴いていた。
その子猫にミルクを飲ませてあげて、身体を綺麗に洗ってあげるとくすんだ茶色い猫じゃなくて真っ白い綺麗な猫だった。そして、しゃべりだした。
最初は喋ることに驚いたけれど、意思の疎通ができる賢い猫だった。
お話をしながら育てるのは、楽しい日々だった。懐かしい……。
お腹を空かせていた時にミルクを出してあげたから、ミストは忘れられない味になっているのかもしれない。
「……では、行きますか。夜までには決着をつけたいですからね。公爵令嬢様が敵なら、アシュトン殿下のお力添えもいるかもしれません。ノクサス様のお名前で、上手く呼び出しましょう」
「はい。きっと協力してくれますよ」
アシュトン殿下は、ランドン公爵令嬢様を諫めていた。
ノクサス様のことを気にしていたし、きっとノクサス様にとって悪いようにはしない。
「……勝手に人の名前を使おうとするんじゃない」
出発のために、私たちがみんな立ち上がったところでの後ろから声がした。
振り向くと、ノクサス様が起き上がっていた。
2人は飛び込んでくるなり、状況を察したようですぐに私とノクサス様を助けてくれようとしている。
ミストの吐いた霧は清浄なもので、この中で呪いは力を弱めた。
ノエルさんは、ノクサス様の呪いが少しでもおさえられるように、浄化の魔法をかけている。
「ダリア様!! このまま呪いを押します! 魔喰いの魔石を埋め込んでください!」
「はい!! お願いします!」
ノエルさんがそう叫びながら言った。
おかげでさっきよりも呪いの黒いモヤが消えている。術者に返っているのかもしれない。
でも、そうなら……。
「……っ!?」
ノクサス様の額のかざしている手が、急にピリッとした。
向こうも呪いの増幅を増しているのだろう。私のかざしている手まで穢そうとして来た。
こんなことにする魔法使いに負けたくない。私はノクサス様を助けると決めたのだ。
いっそう魔喰いの魔石を埋め込む魔力に力を込めた。
「……穢らわしい! ダリア様に穢らわしいモノで触るな!!」
この呪いの黒いモヤが、私の手を穢そうとしたところでミストが大きくなり怒り始めた。
そして、ミストの咆哮でノクサス様の部屋の窓が一斉に割れる。
「近づくな! 近づくなぁーー!!」
ミストが前脚でダンダンっと地団駄を踏むようにすると、床が揺れるほどの衝撃をおこし、私とノクサス様に向けてより濃い霧を吐いた。食べられるかと思うほど大きな口で、ミストの吐いたより濃い霧は今までで一番清浄なものだった。
呪いの黒いモヤはその霧に堪らないのか、少しずつ力が弱まっている。
魔喰いの魔石は少しずつノクサス様の額に埋まっていっている。
そして、呪いの黒いモヤと一緒にノクサス様の額に入り込んだ。
ノクサス様は、私にもたれるように倒れている。
いくら身体が丈夫でも、獣化の呪いは進行しており、もうすぐで本当に獣になるところだったのだ。意識を失ってもおかしくない。
でも、元に戻っている。
倒れたままもたれているノクサス様の頭を抱きしめた。
「……ノクサス様っ……!」
どこにも行かなくて安心したのか、胸がいっぱいになっていた。
ノクサス様の部屋はミストが壊したために、別の部屋でノクサス様は眠っている。
呼吸は緩やかで、落ち着いている。その様子に安堵した。
「……あの女は許せません! 変態男だけじゃなくて、ダリア様も穢そうとしていました!」
いつもの猫の大きさに戻ったミストは、また前脚をダンダンッとしている。
精霊獣のあの姿なら、またノクサス様のお部屋を壊しそうなくらい怒っている。
でも……。
「ミスト。呪いを増幅していたのは、女なの?」
「女の匂いがしました。あの穢れの匂いはもう覚えています!」
怒るミストにアーベルさんが、機嫌を直してもらうようにチーズを出した。
それをミストは、アーベルさんの手から食べ始めた。
「……ランドン公爵令嬢様のお邸にはないのですよ。魔法使いの部屋もない……と先ほど連絡が来ました」
フェルさんが、悩みながらそう言った。
「ランドン公爵様の別邸も調べているのですが……最近ランドン公爵令嬢様が訪れた邸には、見つからなかったのです。午前中は、私とミストで訪れたところもあるのですが……ミストはこんな家に穢れなんかない……と言っていたのですが」
ミストとノエルさんが、ランドン公爵令嬢様のお茶会に来なかったのは、別邸を調べていたせいだった。
ロバートさんは、考えながら思い出したことを話し出した。
「……役に立つか分かりませんが、ランドン公爵令嬢様は、最近は侍女と2人で出かけることが多いそうです。メイドから聞きました」
「メイドって……ロバートさんが口説こうとしていたメイドですか?」
「違います! そのメイドを足止めする時に少しお話を聞かせてもらっただけです!!」
護衛中に、女を口説いているのか、とフェルさんが睨んだ。
それを、ロバートさんは力いっぱい否定する。
「……その侍女の家に隠しているとか……はないですかね?」
「あり得ないことではありませんが……住み込みの侍女が、実家に隠しますかね?」
ノエルさんが、不思議そうに言った。
「侍女の持ち家ということはないですか?」
「……裏付けが必要でしょうから、一度調べるとしても行き先は早々に知りたいですね。ノエル、すぐに行きますか?」
「そうですね。今なら、呪いの増幅を返されていますから、見つけることが出来れば、抵抗する力はないかもしれません。チャンスですね」
ノエルさんがそう言って、すぐに行くつもりなのか杖を持ち始めた。
「ロバート、行き先は聞いているか?」
フェルさんも立ち上がり、マントをかけ始めている。
「くわしい場所は分かりませんが、いつも裏口から、2人で出て行っていたそうです。馬車にも乗らなかったそうですので、おそらくは近い場所にあるかと……」
「ロバートさん……凄いです。よくあの短時間で聞き出せましたね」
「えぇ、ダリア様に勝手をされた時はどうしようかと思いましたが、せっかくの情報を聞き出すチャンスですからね。情報をもっている人間がわからなくても、誰がきっかけとなる情報をもっているかわかりませんから、聞き込みは大事です。情報をもっている本人がわからないこともありますからね」
ロバートさん、優秀です。
空気の読めない困った人かと思っていたのに、こんなに役に立つ人だったとは。
さすが、騎士団長の護衛に抜擢された人だ。
「では、私も行くのでマントと杖を取ってきます」
「ダリア様は留守番ですよ」
フェルさんは、当然のように言った。
「でも、私が行かないとミストが食い殺してしまうかもしれません」
「当然です! ダリア様を傷つけるやつを、僕は許さないです!」
「一応、公爵令嬢様だから、勝手に止めをさすと不味いわ。ミストの正体がバレるかもしれないし……色々人間社会は面倒なのよ。それに、ミストにそんなことをさすために、一緒にいるわけじゃないからね」
腕の中に飛び乗って来たミストの頭を撫でながらそう言った。
でもミストは不思議そうな顔で私を見上げる。
「じゃあ、僕は何のためにダリア様といるんですか?」
「暗殺者にするためじゃないことは確かよ。ミストは、ここで一緒に暮らすのよ。時々はこんな風にお願いすることもあるけれど、ミストは、ミストらしく好きに遊べばいいのよ」
「……セフィーロ様みたいに、すればいいのですか?」
「……師匠の生活を見習う必要はないけれど、そんな感じね。ずっと私やノクサス様といましょう」
あんな好き勝手する生活を見習ってほしくないけれど、猫のミストには師匠の生活が合っていたのかもと思う。
腕の中にいるミストにアーベルさんがそっと撫でて来る。
「ミスト。ここにはノクサス様がミストの部屋も作りましたから、もうこの邸の住人ですよ」
「アーベル……ミルクもくれるか?」
「えぇ、美味しいミルクを出してあげますよ。ミストはミルクが好きですからね」
「ダリア様がいつも飲ませてくれたから、ミルクは大好きだ」
師匠がどこからか拾って来た時は、泥まみれだった。
まだ、子猫でお腹を空かせていたのか、今ほどしゃべらなくて小さく鳴いていた。
その子猫にミルクを飲ませてあげて、身体を綺麗に洗ってあげるとくすんだ茶色い猫じゃなくて真っ白い綺麗な猫だった。そして、しゃべりだした。
最初は喋ることに驚いたけれど、意思の疎通ができる賢い猫だった。
お話をしながら育てるのは、楽しい日々だった。懐かしい……。
お腹を空かせていた時にミルクを出してあげたから、ミストは忘れられない味になっているのかもしれない。
「……では、行きますか。夜までには決着をつけたいですからね。公爵令嬢様が敵なら、アシュトン殿下のお力添えもいるかもしれません。ノクサス様のお名前で、上手く呼び出しましょう」
「はい。きっと協力してくれますよ」
アシュトン殿下は、ランドン公爵令嬢様を諫めていた。
ノクサス様のことを気にしていたし、きっとノクサス様にとって悪いようにはしない。
「……勝手に人の名前を使おうとするんじゃない」
出発のために、私たちがみんな立ち上がったところでの後ろから声がした。
振り向くと、ノクサス様が起き上がっていた。