英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

君しか考えられない

ベッドで眠っていたノクサス様が目を覚ましていた。
途中から私たちの会話が聞こえていたのだろう。

「ダリアは連れて行かないでくれ。何かあれば俺が困る」
「でも、今がチャンスですよ?」
「……捕らえるのは騎士団の仕事だ」

そう言われればそうかもしれない。

「でも……」
「……俺の側にいてくれないのか?」

獣化しようとしていたし、ノクサス様は心細いのだろうか。
切ない目で見ている。
ノクサス様の伸ばして来た手を取ると、そのまま、抱き寄せられた。

「絶対に行かせないからな……フェル。お前たちだけで行ってくれ」
「そうします。元々ダリア様は、ノクサス様のお世話をお願いしたのですから……お願いしますね」

フェルさんが、ニコリとそう言った。

「必ず捕まえてくれ。この機会にアリス嬢には街から離れてもらう。アシュトン殿下の手紙は俺から書こう」
「かしこまりました。では、このまま、出発します」

みんなが行ってしまう。
私もノクサス様のお役に立ちたかったのに……。

そう思いながら、扉は静かに閉まった。

残されたこの部屋には、私とノクサス様だけになっていた。

「……私、役立たずですね。守られてばかりです」
「そんなことはない。ダリアのおかげで記憶も戻ったし、今回のこともダリアがいなければ、獣化に耐えられなかった。感謝している」
「……でも私に会いに行こうとして階段から落ちたのでは……?」

私に会おうとしなければ、階段から落ちることもなかった気がする。
むしろ、私のせいなのではと、今更ながら思う。

「あれは俺の失態だ。もっと早く会いに行くべきだった」
「そんなことないですよ……ノクサス様が、記憶喪失になっても、私のことを忘れなかったから、こうしてまた会えたのですから……」

ノクサス様は、私を忘れることはなかった。それは嬉しいことだ。
そんなノクサス様にますます惹かれてしまう。目の前のノクサス様の大きな手を愛おしむように重ねた。
その手を、大事そうに握りしめてくれる。そして、その手に軽くキスをして来た。
顔が赤らめるほど恥ずかしかった。

そんなノクサス様のためになにかしたいのは当然だと思う。

「……ノクサス様。呪いは大丈夫ですか?」
「あぁ……以前のような呪いの違和感はない」

呪いの見えない顔を見ると、仮面をつける必要もないくらい黒いものはない。

「でも、私がすると、少しだけ魔食いの魔石の痕が見えますね……やっぱり師匠みたいにはいきませんね」

隣に座っているノクサス様の額が見えるように髪をかき上げて、覗き込むようにそう言った。

「……ランドン公爵令嬢様は、ノクサス様が好きで呪いを使ってまで気を引こうとしたんですね」
「呪いを治す引き換えに、結婚を迫るつもりだったのかもしれないな……愚かなことだ。俺には、ダリアしかいないのに……」

ランドン公爵令嬢様は、いくらノクサス様が好きだとしても、やり方が卑怯だ。
呪いを利用して、それを治して恩に着せようとしている。
全然ノクサス様とお似合いじゃなかった。そんな人にノクサス様は渡せない。

「……ダリア。ずっと側にいてくれ。君しか考えられない」
「はい……ずっと一緒にいます」

両手が繋がったまま、そう誓った。自然と唇が重なっていた。





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