最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
次第に見知らぬ男から、やれ「エミリーと付き合っているのか」だの、やれ「イヴリンに手を出すな」だの言いがかりをつけられるようになり、しまいには本気で付き合っていた女性から「浮気者!」と頬を叩かれた。

面倒になった俺は女性と距離を置くようになった。

騎士の称号を授与されてからは、いっそう女性から言い寄られる機会が増えたが、俺個人に興味があるというよりは称号や金銭面に興味があることは明白だった。

周囲も結婚や縁談を言い出すようになり、勧められた女性と交流を持つこともあったが、心を許せるような女性とは出会えないまま、女性不信をこじらせたようなかたちになる。

そんなときだった。母が病に冒されたのは。

イギリスで生活していた俺は、日本で暮らす母とはそう頻繁に顔を合わせてはいかった。

だが、母が家族の誰よりも俺のことを愛してくれていることは実感していた。

俺が女性に辟易していることを見抜いた母は、病床からこんな言葉をかけてきた。

『志遠にお嫁さんができるまで、生きてはいられなさそうだわ。ごめんなさいね』

『大げさだ。俺の嫁なんてどうでもいいから、早く病を治してくれ』

生をあきらめたような母の物言いが嫌いだった。

実際、母は自分の残された時間を正確に把握していたわけだが、その事実を認めたくなくて、俺は憎まれ口ばかり叩いてしまった。

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