最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「それで、ダリルは志遠さんをあんなにも尊敬しているんですね」

「ああ。俺に恩を返すと言って仕事を手伝ってくれている。俺は実家を継げと再三忠告しているんだがな。……さぁ、ついたぞ」

目的の住所にたどり着き、俺たちはそこに建っているアパートメントを見上げた。五階建ての、赤茶色い煉瓦の建物だ。

陽芽の両親が住んでいたのは、おそらく三十年程前だろう。アパートメントがまだ存在していたことにまず俺たちは安堵した。

ここイギリスでは古ければ古いほど建物の価値が上がる。

このアパートメントも年月を重ねてはいるものの、周りに比べればまだまだ若造、徐々に味が出てきたといった印象の佇まいだった。

「三階、東の一番端――あそこでしょうか」

「陽芽。そっちは西。逆だ」

俺はそれらしき部屋の窓を指さす。

当然、今は別の人間が住んでいるようで、窓から白いカーテンがかけられているのが見える。

「訪ねてみるか?」

「……いえ。ここから見るだけでも、両親がどんな景色を見て生活していたか、わかりますから」

そう言って、陽芽はアパートメントを背にして立つ。正面には緑豊かな公園。その奥には静かな住宅街が広がっている。

両親がかつて見た光景を、想像しているのだろう。

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