最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「……こんなところまで付き合ってくださって、ありがとうございました」

「これで本当に満足なのか?」

「はい」

陽芽がこちらを向いて、眩しい笑みを浮かべる。

ただ目的の家を探しあて、眺めを確認しただけ。

だが、陽芽は満足したらしい。

これでよかったのだろうか? もっと他にできることがあるのではないか?

もどかしさを感じながらも、その場を後にしようとした。そのとき――

『私の部屋になにか?』

背後から声をかけられ、俺たちは振り返った。

立っていたのは五十代くらいの女性。身なりには気を使っているようで、デザイン性の高いモードなワンピースにクラッチバッグを下げている。

真っ赤なリップと大きなピアスが印象的だ。

ふと横を見ると、陽芽が返答に困りあわあわしていた。

英語で話しかけられたので、言っていることが理解できなかったのだろう。

『失礼。以前、彼女の母親があちらの部屋に住んでいたそうなので……と言っても、もう三十年も前の話になるのですが』

俺が英語で答えると、女性は目を大きく見開き驚いた顔をした。

『昔住んでいた日本人夫婦の娘さん?』

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