最愛ベビーを宿したら、財閥御曹司に激しい独占欲で娶られました
「ありのままを受け入れる素直さが、お前の唯一のよさだろうが。そこを捨ててどうする」

「疑えって、今言ったじゃありませんか」

「お前は疑わなくていい」

「な、なんでですか! 疑えって言ったり、疑うなって言ったり」

すっかり混乱して、彼女は目をぱちぱちと瞬いている。

無理もない、俺自身も混乱している。彼女の警戒心のなさがもどかしい一方で、そのまま、清く正しくあってほしいとも思う。

しっかりしろと叱りたい反面、そのままの君でいてほしいと願っているのだから。

「……疑う心が必要なら、俺がいくらでも補ってやる」

彼女に欠落しているのは狡猾さ、そして疑い深さ。それならば俺があまりあるほど持っている。

同時に俺は、予期せず自分に足りないものを自覚した。

他人を信じるまっすぐな心、純真さ。今ある幸せを尊ぶ謙虚さ。

これらは俺がどう努力したところで得られないものだ。他人を信じよう、そう心がけた瞬間、その根底にはすでに疑心がある。

足りなければ補えばいいという頭が働いてしまう俺には、足もとにある幸運に目を向けることはできないだろう。

きっといくつものささやかな幸せを見逃して生きてきたに違いない。

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